1. 産業政策

水道民営化と外資による水源買収の話

概要

  • 日本では、いくつかの自治体で水道民営化が始まったが、それを外資「水メジャー」が担うことへの懸念が報じられている。
  • また、外資による水源の買収についても、脅威論が根強くくすぶっている。

解説

導入が始まった水道民営化

  • 2018年4月、浜松市が下水道事業の運営権を民間に委ねるコンセッション方式を導入し話題になった。
  • それに続き、2019年12月には宮城県議会が、コンセッション方式導入の関連条例改正案を可決した。今後は水道施設を宮城県が保有しつつ、上下水道と工業用水の運営権を民間に一括で売却する、「みやぎ型管理運営方式」の実現を目指している。
  • 大きな自治体が導入に向け舵を切ったことで、水道民営化は注目を浴びている。

生活用水の需要が減少し
供給体制にも課題あり

  • そもそも水道事業を民営化する理由は、水の需要が低下する一方、供給体制側に費用増や人員不足などの課題が出てきたためだ。
  • 需要については、節水技術が高まってきたことなどにより、1人当たりの使用量が減少している。例えば、事業所や家庭で使われるトイレの多くは、かつて1回の水洗に10リットルを要していたが、最近はその半分程度で済むようになっている。それに加え、地方では人口減少が始まっており、需要減少に拍車をかけている。
生活用水の使用量/出所:国土交通省「水資源の利用状況」
  • 需要が減少することで、供給側は設備過剰になることが予想される。また、日本では多くの水道管が高度経済成長期に整備されたため、老朽化が進んでいる。現在も毎年多くの水道管が破裂しているが、今後はそれが増加し、メンテナンス費用がかさむ。
  • しかも、少子高齢化や人口流出で、多くの自治体で財政は悪化の一途を辿る。
  • それに加えて、水道事業に充てる人材の採用も困難になってきている。
  • こうした背景から、民間に水道事業の運営を任せコストを削減しようとする動きが出てきている。

価格高騰や品質悪化
に対する不安

  • 一方で、水道民営化には懸念もある。既に民営化を導入した都市の中には、水質悪化や価格高騰といった問題が発生しているところがある。そのため、米アトランタや独ベルリン、仏パリなどでは水道事業が再公営化された。
  • なお、価格高騰については、民営化をしていない状態の日本でも起きていはいる。2017年度時点で、水道料金が最も高い自治体と、最も低い自治体の間には約8倍の格差がある。
2017年時点の水道料金格差(家事用20㎥)/出所:FNNニュース
  • この差を生み出すのは、取水している水の元々の水質のよさや、人口密度といった要素だ。取水している水の水質がよければ、その後の浄化コストが安く済む。人口密度が高ければ、1人当たりの配水管などの維持費が少なく済む。
  • こうした格差は、現在の水道事業が公営だからこそ「8倍程度で済んでいる」という見方もある。水ジャーナリストの橋本淳司氏によれば、今後民営化の進展によって、この格差が20倍程度まで拡大するとの予測もある。
  • こうしたことが、水道民営化導入にあたっての懸念となっている。

日本初の水道コンセッション
は水メジャーが受注

  • そんな不安がある中、ノウハウを持つ海外の「水メジャー」が日本市場に参入し、案件を受注している。
  • 日本初の水道コンセッション案件となった浜松市の下水道では、 水ビジネス世界最大手のヴェオリアが、 JFEエンジニアリングやオリックスなどとJVを組み運営している。
  • 日本企業も参加するJVとは言え、公衆衛生や生活品質に直結する水道の事業運営を、外国企業が担うことへの不安がメディアやSNSで見られるようになっている。
コンセッション運営となった浜松市公共下水道/出所:浜松市

水にまつわる外資脅威論

  • 水道民営化と直接関係ないが、日本では水源買収についても「外資脅威論」が根強く存在するため、併せて取り上げたい。
  • 直接関係ないというのは、外資が水源を利用して実施すると想定される事業と水道事業が異なることに加え、水源も異なるためだ (水は循環しており水源同士が繋がっているという話はさておく) 。水道用の水源は公共財である河川などの「地表水」が中心である(*伏流水や地下水も一部あり)一方、外資が買収しているのは、私有財産である土地の付属物として扱われる地下水だ。
  • 直接関係ない水道民営化と水源買収だが、人々が関心を持ち不安を感じる共通の背景がある。それは、人々が生きていく上で必要不可欠な水資源の需給がひっ迫し、確保が困難になっていくことだ。

外資脅威論の背景にある
水不足のトレンド

  • 今後世界で水の需給がひっ迫することをデータで確認する。
  • まず国連人口統計の予測によれば、現在約78億人の人口が、2050年には約97億人に増加する。人口という水利用の母体が増えることで、水需要は増加する。
国連人口予測/出所:United Nations World
  • これに加え、新興国で生活レベルが向上したり、工業化が進展したりすることで1人あたりの水の使用量も増加が見込まれる。OECDの予測によれば、人口増加に加え、BRIICS諸国を中心に生活用水、工業用水、発電用水がそれぞれ大きく伸びることで、全世界での水需要は2000年から2050年にかけて、55%も増加する。
2000年と2050年の水需要比較/出所:OECD ENVIRONMENTAL OUTLOOK TO 2050を元に著者一部補足
  • その結果、今後世界各地で水ストレスが高い(水需給がひっ迫する)地域が増加する。そうした地域は中東、インド、中国といった国々で特に多く、その人口は39億人に達すると見込まれている。
水ストレスが高い地域の分布(赤がストレスが高い地域)/出所:OECD “Water:
The Environmental Outlook to 2050″
  • このように、水の需要が減る日本の外側では、真逆のトレンドが進行していく。こうしたトレンドから想像できるのは、各国が希少性が高まる水資源の確保を行う姿であり、これが外資脅威論の背景にある。

日本の森林は確かに
外資に買収されている

  • 日本で水資源を得るための手段として、山林の買収が想定される。山林は雪解け水や雨などで水が得られることに加え、土壌が多孔質で保水力が高いため地下水が豊富にあるためだ。
  • こうした山林が外資によって買われているという事実が、林野庁の調査で一部明らかになっている。2019年度の調査では、30件の買収案件のうち、21件が北海道の山林で、その取得者は殆どが中国の個人または法人だった。
  • ひとまず把握できる範囲では、中国資本が北海道の山林を買っている実態が明らかになっている。
外資による森林買収案件/林野庁「外国資本による森林買収に関する調査の結果について」(2019年)より 著者作成
  • もっとも、こうして把握できるのは氷山の一角だと言われている。外資法人の日本法人や、ペーパーカンパニーを通じて買収されてしまえば、把握が難しくなるためだ。
  • 一部のメディアや専門家は以前からこの問題を取り上げてきた。日本には外資による土地購入を規制できる法律がない。正確には外国人土地法があり、政令を定めれば土地の取得などを規制できるが、政令は現在制定されておらず、今後も制定される見込みは小さい(理由は後述)。そのため、国家レベルでの規制方法は今のところないのだ。

外資の土地購入規制
ないのは日本だけか

  • こうした外資の土地購入規制がないのは、日本だけなのだろうか。
  • 下図は、ジェトロが国別にまとめている「外資に対する規制」から情報を抜粋してまとめたものである。
  • まず、土地所有が認められない国々を概観してみると、途上国が多い。細かな事情は国によって異なるが、途上国の場合、経済成長を遂げる前段階では土地単価が安いために外資の投資によって土地を買い占められたり、地価が上昇したりして自国民の土地利用が妨げられるリスクがあるため、それを防ぐ意図があると考えられる。
外資による土地所有が認められない代表的な国々/出所:ジェトロ、各国の「外資に対する規制」の「外国企業の土地所有の可否」より著者が抜粋し作成(表内は原文ママ)
  • 一方で、日本と同じ先進諸国は、土地所有(売買)自体に制限は見受けられない。WTOで自由化を進めてきた先進諸国は、土地所有についても、内外無差別のスタンスを守っているように見える。
先進国での外資による土地所有の可否/出所:ジェトロ、各国の「外資に対する規制」の「外国企業の土地所有の可否」より著者が抜粋し作成(表内は原文ママ)

先進諸国も事実上は土地の
所有や利用を規制している

  • ではそうした先進諸国で、外資が何の規制もなく土地を購入できるかと言えば、そうではない。
  • 米国では、州法で、帰化資格のない外国人や、非居住外国人の土地所有を禁じている州がいくつもある。また、対米外国投資委員会(CIFIUS)が判断した案件については、大統領権限で売買を中止させることができる。
  • 英国では、土地所有形態は、フリーホールド(≒所有権)またはリースホールド(≒賃借権)が一般的だが、「ホールド(保有)」という名の通り、土地の最終的な所有権は政府にある。
  • また、土地の利用を規制している国もある。独ではBプランと言われる都市計画を市町村が決定することができ、土地の利用方法や建築物の要件などはこれに従わなければならない。すなわち、土地を購入できたとしても、自由に利用することは出来ない。
  • 一方で日本は、1994年にWTOに加盟した際、GATSで外資による土地の所有や利用に「留保」をつけなかった。「留保」とは、条約で負う義務を、一部負わないと宣言し回避できる仕組みだ。こうして、日本は外資による土地の所有や利用について、「ノーガード」の国となってしまった。

土地購入規制の
導入が進まない理由

  • こうした問題点を指摘されながら、なぜ日本で外資による土地購入規制強化が進んでこなかったのか。
  • まず挙げられる理由は、WTOルールだ。国際通商の世界では、一度進めた自由化に逆行することが難しい。仮に一度自由化した条件を厳しくする場合、それぞれの条約締約国に対して「お土産」を渡すなどの取引をしたうえで認めてもらう必要があり、このハードルが極めて高いと予想される。(留意点として、最近の経済協定、例えばTPP11の附属書Ⅱでは「将来留保」として、土地の取引は「相互主義」に基づき将来制限しうるという理屈になっている)
  • そうした自由化に逆行する動きをした場合、日本のソフトパワーや信頼の低下につながる可能性があることも規制導入にマイナスに働く。(現在の保護主義的な世界情勢を見ると、日本だけが目立つ度合いは低下しているとは思うが)米中に挟まれた日本が力の論理で負けないために、「ルールベース」は大事にすべき行動指針だ
  • さらに、経済的な理由も考えられる。 外資にとって、日本では外資の土地所有に規制がないことが一つの魅力となっているため、規制を設ければ、投資意欲が減退する可能性がある。 それは、土地所有者にとっては、買い手が減ることを意味し、自治体にとっては、固定資産税の潜在的な払い手が減ることを意味している。買い手がつかず、相続も忌避される「負動産」が増加する中で、当事者にはマイナスの影響がありうる。

水源保全の対策は
自治体条例で行っている

  • こうして国レベルで規制導入が進まない中、自治体では条例により水源の保全が行われている。
  • 北海道水資源の保全に関する条例では、水保全地域内の土地については、売買の3か月前までに 土地所有の当事者や利用目的などについて、 事前届出が義務付けられた。所有そのものを規制することはできないが、水源の適切な管理の第一歩として、実態把握を進める効果が期待されている。
  • ニセコ町水道水源保護条例では、土地利用の規制にまで踏み込んでいる。町長が指定した「水源保護地域」では、水道の水質を汚染するおそれのある施設や、水源の水量に影響を及ぼすおそれのある施設などの「規制対象施設」を設置することを禁止した。
ニセコ町水道水源保護条例の抜粋/出所:ニセコ町
  • 罰則もあり、条例に違反した場合には1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科される。
  • こうした条例は、水源を持つ他の自治体でも制定されている。


自治体条例からの
進展が望まれる

  • こうした条例に基づく規制は、水資源保全に向けた進展として評価が高い一方で、限界も指摘されている。
  • 1つは、行政罰の限界だ。条例で定められるのは、2年以下の懲役もしくは禁錮/100万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑/5万円以下の過料に限られる。こうした規制では抑止効果が不十分な可能性がある。
  • もう1つは、自治体にまたがって存在する水源に関する条例を個々の自治体で制定して実効的に政策目的を達成できるかという問題だ。実際には流域ごとに広域で自治体間連携をすることが適切と考えられ、その仕組みづくりが必要だ。
  • そのため、今後は国レベルで法律を制定し、こうした課題を解決していくことが望まれている。


水源の使い道はよくわからない

  • ここまで規制について書いてきたが、そもそも外資が本当に買収した土地に付属する水源を使うのか、どのように使うのかはよくわからない。
  • 事業性の観点から推測してみれば、価格が安い生活用水をわざわざ日本から持ち出すとは考えづらい。価格が水道水の1000倍程度ともいわれるミネラルウォーターであれば収益性はあるだろうが、扱う水量は小さくなる。
  • 近年増えているリゾートなどの施設用の水源としての利用も、水量は限定的だ。しかも、日本の商業施設や病院などでも、地下水を使用している例はある。
  • 将来水不足が本格化した場合、日本で農業や工業を行い、その過程で水を使い、完成した商品を輸出することはあり得るかもしれない(バーチャルウォーター)。しかし、生産活動の立地を決定する要因には、水よりも重要なものがいくつもあるし、農業の実施には規制も多い。
  • そもそも、海水淡水化や膜ろ過浄水などの技術開発が進むことで、水の需給が緩和する可能性も十分考えられる。
  • こうして考えていくと、外資が水源を活用する蓋然性や活用方法は考えてみたところでよくわからない。したがって、外資が脅威なのかどうかを余り論じても得られるものは少ないと感じる。しかしその一方で、水源を乱用されるリスクも完全には否定できない。
  • そのため、水源の水質や水量、涵養機能などが損なわれる事態を広く想定し、それが実現化するリスクを防ぐための土地の利用を規制するルールを作っておくことが重要なのだろう。

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