1. 企業動向

世界で5G通信網を構築するファーウェイ 米国は包囲網を作れず

概要

  • 2018年、米国は国防権限法を成立させ、以降ファーウェイに対する規制を次々に発動。同盟国にもファーウェイを採用しないよう説得を始めた。
  • 一方で、英国、サウジ、フィリピンなど、米国と同盟国であるずの国々でファーウェイに5Gインフラ構築を発注する企業が続出。
  • 経済合理性で優位に立つファーウェイの進出を米国は止めることができず、包囲網は形成できていない。

解説

経済と安全保障の両面から
ファーウェイを封じたい米国

  • 米国は2018年8月に国防権限法を成立させ、同法に基づき2019年8月にファーウェイ機器の輸入を規制した。具体的には、連邦政府機関がファーウェイなど中国企業5社の通信機器や監視カメラなどを調達することを禁止された。2020年8月からはそれら5社の機器を使用した企業も連邦機関と取引ができなくなり、一層規制が厳しくなる。
  • さらに、米国はファーウェイへの輸出も規制した。2019年5月、米商務省はファーウェイと関連企業68社を産業安全局(BIS)の「エンティティリスト」に加えた。これによって、ファーウェイに製品やサービスを輸出する場合、BISの承認が必要となった。この事実上の「禁輸措置」によって、ファーウェイは部品調達で苦しめられることとなった。
  • 米国はこれら措置を安全保障上の理由により正当化している。ファーウェイが5G対応製品にバックドアを設置し、意図的に脆弱性を持たせることで、中国当局が電話ネットワークに対する盗聴や攻撃、不安定化を図れるよう支援しているという危険性を主張している。
  • もっとも、ファーウェイはこれを否定しており、米国の主張を裏付ける確たる証拠が公表されているわけではない。

米国と関係が深い豪州、日本も
政府調達でファーウェイを排除

  • 米国防授権法成立と同時期の2018年8月には豪政府が、5G導入に関する通信事業者向け指針で「豪州の法律に反し、外国政府の指示に従う可能性のある企業」が5Gに関与することを禁じた。
  • 2018年12月には、日本政府が中央省庁や自衛隊が使う情報通信機器の調達に関する運用指針を決定した。名指しは避けつつも、2019年4月以降、政府調達からファーウェイ製品を事実上排除している。通信などの重要インフラにも同様の規制が及ぶ可能性があるため、通信キャリアはファーウェイ機器の調達を見送った。結局、NTTドコモがNEC・ノキア・富士通を、KDDIがエリクソン・ノキア・サムスン電子を、ソフトバンクがエリクソン・ノキアを基地局ベンダーとして選んだ。
  • 日豪いずれも安全保障上の理由で、かつ同盟国である米国と足並みを揃えた措置である。

米国がファーウェイを
規制する理由

  • 米国がファーウェイを規制する理由として、トランプ大統領の政治スタイルが注目されがちだが、実際はより構造的な理由によるものだと思われる。その理由を4つ挙げたい。
  • 1つ目は、中国の急激な成長によって、覇権国の座を譲り渡す時が来るという危機感だ。鄧小平が改革開放路線を採用して以来、米国は中国が経済成長を遂げれば自由化・民主化すると楽観視していたが、実際は共産党の一党独裁・国家資本主義のまま成長を続けた。そして、今では経済・安全保障の両面で米国と覇権を争う姿勢を隠さなくなった。2015年に発売された「The Hundred-Year Marathon(邦題:China 2049)」が米国でベストセラーとなったことは、中国に覇権を奪われるとの警戒感が広がっている表れだ。米国としては経済・安全保障の基盤となる通信関連企業を叩き、中国の台頭を抑えたいのだろう。
2049年に中国が覇権を握ることを書いた「China 2049」
  • 2つ目は、中国が技術情報を窃取できる体制づくりを増強する動きが進んでおり、それに対抗する必要が強まっていることだ。中国では、2017年に国家情報法が施行され、あらゆる中国人や中国企業が、中国の情報活動に協力すべき義務を負った。さらに、近年中国がM&Aを通じて、米国のハイテク技術を取得していることが明らかになってきた。
  • 3つ目は、5G通信網にセキュリティリスクが顕在化した場合のインパクトが、4G以前よりも遥かに大きくなることだ。4G以前の通信や初期の5G通信は携帯電話での活用が主用途だが、5Gが進めば様々なサービスに応用され、社会に広く、深く入り込んでいく。広範な用途・対象物に使われる5G通信は、窃取されうる情報量が増加するだけでなく、社会インフラ機能そのものを麻痺させられてしまうリスクも生まれる。
  • 4つ目は、技術・特許の観点から見たファーウェイの競争力が4G以前と比べて強力になっていることだ。3Gや4Gでは、クアルコムを筆頭に欧米系の企業が製品の製造に欠かせない標準必須特許(SEP)を保有し、ライセンスとロイヤルティ料により高い収益を上げていたが、5Gではファーウェイが最も多く特許出願を行っている。
ファーウェイと競合企業の5G関連特許出願状況/出所:2019年2月19日付 The Wahington Post “China’s 5G Riches Are a Blocked Number for Investors”を元に著者作成

5Gでのファーウェイ機器
採用は30か国・60社を突破

  • 米国およびその一部同盟国が5Gでファーウェイを排除するのとは裏腹に、世界ではファーウェイ製の通信機器の採用が進む。5Gでファーウェイの通信機器を使用する国は、30以上になると言われている。
  • そして、2019年10月時点で、5G通信網についてファーウェイと契約を交わした企業数は、60社を超えた。
  • 地域別では、欧州で32社、中東で11社、アジア太平洋で10社がファーウェイと契約しており、欧州の中では英国、スイス、フィンランド、イタリアが多かったと見られる。

欧州では、多くの国で
ファーウェイ採用が進む

  • 欧州では、NATOやファイブアイズで米国と安全保障上のパートナーであるはずの国々もファーウェイを排除していない。
  • 英国では、政府がファーウェイ機器採用の是非について、まだ明確な判断を下していない。一方で、5Gの商用化はすでに始まっており、ボーダフォンやEEなどの通信キャリアは基地局にファーウェイ機器を採用している。
  • ドイツは5G通信網構築に関して、英国同様、ファーウェイ排除を明示していない。一方で、2019年12月、ドイツでドイツテレコム、ボーダフォンと市場を分け合うスペイン大手テレフォニカのドイツ部門は、ドイツでの5Gインフラの構築にファーウェイ機器を採用する計画を明らかにした。
  • イタリアでは、ボーダフォンがファーウェイ機器を使い複数の都市で5Gサービスを提供。2019年12月にはパトゥアネッリ経済開発相が「イタリアの未来の5Gネットワーク建設でファーウェイの参加を認めるべきだ」と発言した。
  • スイスでは、通信大手サンライズが 2019年4月に欧州でいち早く5Gサービスを始め、基地局にファーウェイ機器を採用している。
サンライズと欧州初の5G共同研究施設を立ち上げるファーウェイ/出所:ファーウェイ
  • 欧州では、政府は明確な判断を示さないうちに、民間の通信事業者がファーウェイ機器を導入している例が散見される。しかし、一度導入したファーウェイ機器を交換させれば膨大なコストがかかり、現実的ではない。政府が検討を続ける間に、民間企業によるファーウェイ機器導入はデファクト化するのではないだろうか。

ロシアでは政府がファーウェイ
採用意向を明示

  • 欧州と違って、ロシアは政府が5Gでファーウェイを採用する方針を発表している。2019年6月に開催されたサンクトペテルブルク国際経済フォーラム(SPIEF)では、プーチン大統領と習近平国家主席も出席する中、ロシア通信企業MTSは、ファーウェイとの間で5G導入に関する合意を結んでいた。2019年から2020年に5G技術の開発と第5世代通信網の試験的な立ち上げを行う。

中東では米国同盟国が
ファーウェイを排除せず

  • 中東では、米国の重要な同盟国とみなされてきたUAEやサウジが、ファーウェイ採用を進めている。
  • 2019年2月のモバイルワールドコングレス(MWC)で、ファーウェイとUAE国営通信会社エティサラット・グループが2019年中にUAEで5Gを展開する戦略的パートナーシップを締結したと発表した。
  • サウジアラビアでは、2019年6月にスワハ通信情報技術相がファーウェイを排除しないことを明言。2019年には通信大手ザイン(Zain KSA)がファーウェイ機器を使い5Gサービスを開始した。

東南アジアではファーウェイ
排除はベトナムのみ

  • 中国と経済的に結びつきを強める東南アジアでも、ファーウェイ導入は進んでいる。
  • フィリピンでは、2019年6月に、通信大手のグローブ・テレコムが東南アジアで初めて5G商用サービスを導入し、その通信設備にファーウェイ機器を採用した。競合のPLDTも、5Gの通信設備にファーウェイ機器を採用。
  • さらに、2018年11月に中国電信、ウデンナ・コーポレーション、チェルシー・ロジスティックスの合弁ディトが「フィリピン第三の通信事業者」の枠を落札。ディトは当面4Gに注力するが、 中国電信の出資比率が40%あることから、将来5G商用サービスを提供する場合、ファーウェイ機器を採用する可能性は十分ある。
ディト(当時ミスラテル)に事業免許を授与するドゥテルテ大統領/出所:フィリピン情報通信技術省(DICT)
  • カンボジアでは、政府が2019年4月にファーウェイと5Gに関する協力覚書に調印。同国の通信最大手スマート・アシアタは、4Gに引き続き、5Gでもファーウェイ機器を採用する。
  • マレーシアでは、2019年2月、政府が国内の5G移動通信技術の開発推進でファーウェイと覚書を締結した。通信大手マキシスが2019年10月にファーウェイと3年間の5G商用契約を結んだ。
  • インドネシアでは、2019年2月、XLアシアタが東南アジア初となる5G Readyのシンプルネットワーク構築についてファーウェイと覚書を締結した。ジョコ大統領は2019年6月26日日本経済新聞記事のインタビューで、米国のファーウェイ採用禁止措置に対し、「インドネシアは独自の判断をする」と述べている。
  • 明確に反対しているのは南シナ海対立などで中国に対し不信感を持つベトナムのみ。国営で高速通信最大手のベトナム軍隊通信グループ(ベトテル)は、ファーウェイを採用せず機器全体の約8割を自前で開発する方針を明らかにしている。

安全保障政策と経済合理性が
トレードオフになった5G

  • これまで見てきたように、米国の希望と裏腹に、世界ではファーウェイに5G通信網の構築を任せる企業が増えている。
  • それは、単純な経済合理性からはファーウェイを選択することが望ましいと判断している企業が多いことの表れだろう。ファーウェイが提示する価格は欧米の競合企業より2-3割程度安く、5G技術においても先を行くと言われている。
  • 今後あらゆる産業が通信でつながるIoT時代が到来するが、その時はIoTの基盤である通信網にかかる費用や通信品質は、その国で生み出されるあらゆるモノやサービスに跳ね返ってくる。安全保障上の危険性を理由にファーウェイを排除した日米や豪州、ベトナムといった国々は、そのコストを払いながら、ファーウェイを採用した国と競争していくことになる。

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