1. 外交・通商

世界が変わるデジタル課税

概要

  • 欧州を始めとして、世界各国でGAFAなどのデジタルサービスを展開する企業に独自の課税を試みる動きが広がっている。
  • 有形資産が少なく、その代わり大きな無形資産を持つこうした企業の活動を、既存の税制が捉え切れていないことが背景にある。
  • 二重課税のリスクを避けるためにもOECDで一定の方向性を合意することが望まれるが、それぞれに利害を抱える136か国が参加する場において、合意形成をすることには困難を伴う。

解説

米仏が火花を散らすデジタル課税

  • 仏では2019年7月、大手IT企業に独自課税するデジタルサービス税が施行された。世界で7億5千万ユーロ(約900億円、1ユーロ120円換算)超の売上高がある大企業に限って、ネット事業の売上高の3%に課税する。課税対象となった27社のうち17社は米企業だったのに対し、仏企業はネット広告会社のクリテオ1社のみだった。
仏デジタルサービス税の対象となる27社/出所:”Section 301 Investigation Report on France’s Digital Services Tax”, UNITED STATES TRADE REPRESENTATIVE, 2019 を元に著者作成
  • これに対し米通商代表部(USTR)は12月2日、仏のデジタルサービス税が米国企業を不当に差別していると批判し、報復措置として、仏製のチーズやハンドバッグなど、24億ドル(約2600億円、1ドル108円換算)相当の製品63品目に最大で100%の制裁関税を検討すると発表した。最終的な措置は、2020年1月に開催する公聴会を経て決定する見通しだ。
  • 12月3日、NATO首脳会議の舞台となったロンドンでマクロン大統領と会談したトランプ大統領も、デジタルサービス税をめぐる問題が解決できなければ、仏に「相当な規模」の関税をかける可能性があると警告した。

President Trump Meets with the President of France

英国も「GAFA狙い撃ち」

  • 英国では、ジョンソン首相が12月4日、デジタルサービス税の導入を推進する意向を改めて表明した。
  • もともと2019年7月に政権に就いたジョンソン氏が率いる保守党は公約で、デジタルサービス税の税収によってブロードバンド整備や他の分野を改善する資金調達すると約束している。
  • 英国のデジタル課税は、全世界で5億ポンド(約700億円相当、1ポンド140円換算)の収入を持つデジタル企業に対し、2020年4月からその収益の2%を課税することを想定しており、年間約4億ポンド(約560億円相当、1ポンド140円換算)の収入を見込んでいる。検索エンジン、ソーシャルメディア、マーケットプレイスなどのデジタルサービスを対象にしており、GAFAを意識していることは明白だ。

President Trump Attends the NATO Plenary Session

イタリアやその他地域でも
広がるデジタル課税の動き

  • 同様の動きは、英仏以外の欧州諸国にも広がっている。
  • イタリアでは、全世界収益が7億5,000万ユーロ以上(約900億円相当、1ユーロ120円換算)で、イタリアにおけるデジタルサービスから生じる収益が550万ユーロ以上(約6.6億円相当、1ユーロ120円換算)の企業に対して、2020年から課税することを検討している。
  • それ以外には、オーストリアやトルコもデジタル課税導入を検討している。
  • 既にデジタル課税を導入した仏に対して米国が強気に出るのは、こうした潜在的なデジタル課税導入国が増えていることへの危機感があるためだと思われる。

収益を上げる国での
納税を回避するGAFA

  • 各国が独自のデジタル課税を始めている理由は、GAFAの節税があまりに大規模になっているためだ。欧州委員会の報告によれば、EU域内の実効税率は、伝統的ビジネスモデルが23.2%であったのに対し、デジタルなビジネスモデルは、9.5%に過ぎなかった。
ビジネスモデル別のEU域内の実効税率/出所:COMMUNICATION FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN
PARLIAMENT AND THE COUNCIL,Time to establish a modern, fair and efficient taxation standard for the digital economy,2018
  • この傾向は我が国も同様と考えられ、例えば日本におけるアマゾンの納税額は同じくECを展開する楽天と比べて驚くほど少ない。東洋経済オンラインの記事によれば、2014年時点で、アマゾンは日本市場で8700億円を売り上げた一方、納めた法人税は10.8億円に過ぎなかった。一方の楽天は、売上が約5,985億円とアマゾンより少なかったにもかかわらず、税負担はアマゾンの約30倍となる311億円だった。(以降、納税額不明)
  • GAFAは米国外の海外での売上比率が高いため、世界の様々な国で、その納税回避の影響は及んでいると考えられる。
GAFAの地域別売上/出所:各社の2018年アニュアルレポートを元に著者作成

無形資産の特性を
活かして納税回避するGAFA

  • GAFAの納税回避を可能ならしめているのは、事業活動を行う上で有形資産を持つ必要性が小さく、逆に無形資産を豊富に持っているという特性だ。
  • まず、有形資産を持たないことにより、課税対象から事実上外れることに成功している。通常、国が企業に課税するためには、その国に工場や営業所といったPE(Permanent Establishment、恒久的施設)が必要だが、GAFAはそれがない地域でも売上を上げている。例えば、アマゾンが手掛けるビジネスは、実店舗は不要のECサイトだ。物流倉庫は保有しているが、国際的な税当局の合意により、これはPEに該当しないことになっている。そのため、日本はアマゾンに殆ど課税することができておらず、アマゾンの法人税負担は極めて少ないと言われている(納税額は非公表)。
  • それに加え、GAFAは無形資産を移動させることで、タックスヘイブンに利益を貯めこみ、納税を回避してきた。GAFAが取った代表的なスキームは、「ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチ」と呼ばれている。
ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチのスキーム/出所:森信茂樹『連載コラム「税の交差点」第28回:国際的租税回避にどう対処すべきか ー その3 グーグル・アップルの租税回避「ダブルアイリッシュ・ウィズ・ア・ダッチサンドウィッチ」について』、東京財団政策研究所 税・社会保障調査会、2017年を元に著者作成
  • その手法はこうだ。まず、アイルランドに1つ子会社を作り米国から無形資産を移し管理させる。次に、オランダ(ダッチ)の子会社を経由させつつアイルランドに作った2つ目の子会社に無形資産をライセンスし、その子会社はそれを使いコンテンツを製造・販売する。その結果得られた収益に応じたロイヤルティを、アイルランドの課税権が及ばないオランダの子会社を経由させ、1つ目のアイルランドの子会社に戻す。1つ目のアイルランドの子会社は、タックスヘイブン(バミューダ諸島など)にあるペーパーカンパニーが管理支配していて、収益はそちらに吸い取られる。
  • こうして、GAFAは海外で上げた収益を巧みにタックスヘイブンに貯め込み、納税を回避してきた。

GAFAの納税回避は政府/
民間の双方に悪影響を及ぼす

  • こうしたGAFAの納税回避は、消費国において、政府/民間の双方にマイナスの影響を与えている。
  • 各国政府に対しては、本来得られるべき税収を得ることができないというマイナスの影響を与えている。先進国が財政赤字に苦しみ国民に税負担を求めている中で、こうした納税回避は看過できなくなってきている。
各国の財政収支の対GDP比/出所:IMFのデータを元に著者作成

租税条約改正交渉を避け
売上税で独自課税を進める各国

  • 仏が導入し、英国やイタリアなどが導入を検討している独自のデジタル課税は、売上に対するものだ。
  • 通常、相手国と交渉しなければ法人税などの直接税の課税ルールは変更できない。それらを変えるのであれば当事国間で交渉し租税条約を改正する必要がある。一方で、売上税は租税条約が規律していないためこの必要がない。そのため、欧州各国は売上税を使ってGAFAに課税しようとしている。
  • グローバルに活動する企業に対し、どの国がどれだけの課税権を持つかは、長年の国際交渉を通じて調整されてきた領域であり、そこに各国がばらばらに独自ルールで課税をし始めると、二重課税の問題が発生するリスクがある。
  • そのため、各国が協調するOECDで課税ルールを議論し、多国間条約によってルールを定めることが望まれている。

OECDでのルール作り

  • OECDではこうした課題に対して、136か国・地域(12月現在)で構成される「包摂的枠組み」と呼ばれる協議体を作り、①利益配分の見直し(第一の柱)、②軽課税国への利益移転への対抗措置(第二の柱)について検討している。2020年1月までに解決策の大枠に合意した上で、2020年末までに最終報告を行う予定だ。

Signing Ceremony for Multilateral Convention to Implement Tax Treaty Related Measures to Prevent BEPS

  • 独自課税を導入している欧州各国も、OECDでデジタル課税に関する合意が取れれば、独自課税を取り下げる旨を発言しているが、各国が自国に有利な条件を望むため、合意は容易ではない。

第一の柱は、課税対象となる
利益を線引きする利益率が焦点に

  • 第一の柱では、新利益分配法として、3つの案が出ていた。1つ目は、SNS、検索エンジン、オンライン・ショッピング・モールに対象を限定した上で(GAFA狙い撃ち)、PEの有無にかかわらずユーザーがいる国・地域に課税権を認める英国案。2つ目は、PEの有無にかかわらず、ブランドや顧客データなど、「マーケティング上の無形資産」が生み出された国・地域に、課税権が認められる米国案。3つ目は、ユーザー基盤や、その国由来のデジタル・コンテンツ、その国の言語を使ったウェブサイトなど「重要な経済的存在」があれば課税できるというインド等途上国の案である。
  • 2019年10月にOECDは市中協議案を公表し、上記3案を統合した「統一的アプローチ」の方針を打ち出した。そこでは、年間売上高が7億5000万ユーロ(約900億円)を上回る、IT企業を含む「消費者向け産業」に属する企業について、利益のうち、一定の利益率を超えた分を各国に分配する際の原資にすることが提案された。明記はされていないが、メディアの報道によれば、基準は10%になることが有力視されている。
新課税ルールの対象となる企業の利益/出所:著者作成
  • 利益率10%超の高収益企業は限られるため、この基準だと税の分配は限定的になる。例えば、利益率の定義は営業利益に近い概念と考えられているが、その場合グーグルとフェイスブックは対象となる一方でアマゾンは対象外となる可能性が高い。また、日本企業は営業利益率が低い傾向があるため、この基準では米国や欧州と比べれば相対的に影響が小さいと考えられる。
  • 一方で、10%基準だと多くの企業が新課税ルールの適用を逃れうることから、途上国が、利益率10%で「通常利益」となっている部分についても分配の対象とするよう求めてくる可能性がある。
  • また、企業単位ではなく、事業別の利益率で計算することもあり得る。その場合、企業単位の利益率10%基準では新課税ルールの対象外だった企業が、対象になることがあり得る。特に、事業の選択と集中が進んでおらず、企業の中に高収益事業と低収益事業を併存させているような日本企業は影響があると思われる。

第二の柱は最低法人税率
の計算方法などが焦点に

  • OECDは、タックスヘイブンへの利益移転を防ぐ「第二の柱」について、11月8日に公開協議文書「Global Anti-Base Erosion Proposal (“GloBE”) – Pillar Two」を公表した。
  • それによれば、各国共通の最低法人税率を定めた上で、それを下回る法人税率だった場合は、差分を本社所在地国が課税できることが提案された。
  • これについても、複数拠点がある場合の法人税率の計算方法などに各国の思惑があり、引き続き議論が必要とされている。

日本は非IT企業への
波及を防ぐべく交渉

  • 自民党税制調査会は11月19日、会合を開き、こうした国際課税の新ルールについて議論した。
  • OECDが10月に発表した第一の柱に関する案は、対象業種をIT企業に絞らず、海外での売上高や利益に基づいて一律に課税対象を決めるため、日本の非IT企業も新課税ルールの対象に含みうる。そのため、自民党税制調査会は、「GAFAが各国で収集したデータを利益の源泉にするのに対し、非IT企業は本社所在国での研究開発投資や税制優遇などで付加価値を得ている」という主張で、非IT企業への波及を防ぎたい考えだ。
  • ただし、OECD参加国の中では、GAFAに課税したい日欧 vs GAFA以外のグローバル企業にも新課税ルールを適用したい米国という利害の対立構造や、より多くのグローバル企業に新課税ルールを適用したい途上国 vs それをある程度の水準で阻止したい先進国という利害の対立構造が見て取れる。こうした国々が参加する交渉の場において、日本にとって有利な条件を通すことは、容易ではない。
  • 歴史上、各国の国際的な産業競争力は税制の影響を大きく受けてきた。デジタル課税は、内容次第で世界各国の企業活動に大きな影響を与え、世界の在り方を変えるインパクトを持っている。困難であっても、日本はGAFAに適切な課税を果たし自国のIT企業にとって平等な競争条件を整えつつ、基盤産業である自動車などの産業に過度な課税が及ばないよう交渉を進めていくことが求められている。

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