気になる経済ニュースの考察

  1. 通商

日米デジタル貿易協定、世界で先進的なアルゴリズム開示禁止-WTOなどの参考に

概要

  • 11月19日、日米デジタル貿易協定が衆院を通過した。
  • 協定では、GAFAを抱える米国、世界各国でデータを持つグローバル企業を抱える日本の利益にかなうよう、デジタル貿易に対する規制が少ない、先進的な内容となった。
  • 日米はこれをひな型に、WTOにおけるデジタル貿易のルール作りでも、データ自由貿易を進めていきたい考えだ。

解説

米中欧のデータ覇権を
めぐる争い

  • 日米デジタル貿易協定を語る前に、中国、欧州という、データ覇権を巡るキープレイヤーの方針を見て行きたい。中国、欧州の方針と対比することで、米国の立ち位置がより明確になるためだ。
  • 例えば、各国は、個人情報や産業情報の越境移転について異なるスタンスを取っており、こうしたスタンスは、各国の戦略の違いから来ている。
個人データ・非個人データの越境移転の現状整理 / 出所:通商白書2018

規制でGAFAを防ぎながら
自国プラットフォーマーを育てる中国

  • 米国とデジタル覇権を争うのが中国だ。
  • CINICの「第 43 回中国インターネット発展状況統計報告」をまとめたレポートによれば、2018年12月時点の中国のネット利用者は 8 億 2,851 万人だった。これでもまだ人口の 59.6%に過ぎず、今後も増加が見込まれている。
  • 中国はGAFAを防ぎながら、この巨大市場で、自国発のデジタルプラットフォーマーを育て、やがて海外へ進出させることを目論んでいると思われる。政府は既に企業のデータ取り扱いに対して様々な規制を行っており、 個人/産業データの越境移転制限に加え、中国への輸入物品に対するセキュリティ規格強制や、政府調達へのソースコードの開示要求等を行っている。
  • GAFAでは、グーグルが2006年に中国に参入したが、政府による検閲や、中国の人権活動家のGmailアカウントへのハッキングなどを契機に、2010年に撤退した。フェイスブックも参入したことがあるが、2009年に新疆ウイグル自治区で大規模な衝突事件が起きた直後に中国で利用が禁止された。その後もザッカーバーグCEOがたびたび北京を訪れて交渉を続けているが、サービス再開のめどは立っていない。アマゾンも、2019年4月に中国市場からECサービスを撤退させることを表明した。
  • こうしてGAFAが中国市場を攻めあぐねる中、中国では百度(Baidu)、 アリババ (Alibaba)、テンセント(Tencent)、華為(Huawei)(BATH)が成長。検索エンジン、広告、EC、AI、高精度地図、決済、OSなどの重要な分野で目覚ましい成長を遂げている。それ以外にも、TikTokのバイトダンス、ビリビリ動画の哔哩哔哩(ビリビリ)など、日本人にも利用されるサービスを生み出す企業が次々生まれている。

人権を盾にGAFAを防ぎ、
DSMで域内市場活性化を狙う欧州

  • 欧州は、米中にいるような巨大なデジタルプラットフォーマーは存在しない。しかし、自地域がGAFAに食い荒らされることがないよう、規制を使いながら、デジタル単一市場(DSM)戦略で市場活性化を狙っている。
  • 欧州は2016年に 個人情報の保護という基本的人権の確保を目的として、個人データの処理と移転についてEU全域での共通ルールである、EU一般データ保護規則(GDPR)を制定した。2018年5月に施行されると、2019年には早速フランスのデータ保護当局である情報処理・自由全国委員会(CNIL)が、グーグルにGDPRを根拠に5,000万ユーロ(約62億円)の制裁金を科すことを明らかにした。EUらしく、基本的人権・個人情報の保護という目的を達成しつつ、ちゃっかりとGAFA封じ込めを行っている。
  • 興味深いのは、GDPRが個人情報保護のための規制であり、産業データは規制していない点だ。EUにはBtoCのデジタルプラットフォーマーは存在しない一方で、製造業やBtoBのソフトウェア企業は有力だ。例えばドイツには世界有数の自動車産業があり、生産拠点をデジタルにつなぐIndutrie4.0を推進している。また、 シーメンスなどのBtoBソフトウェア企業もいる。こうした事情から、EUでは産業データの規制は緩い方が望ましいと考えたのではないだろうか。
  • GDPRと競争法でGAFAをけん制する一方で、EUは2015年から域内をデジタルな市場として統一するDSMを推進している。EUは域内の関税や非関税障壁は取り除かれているが、国境を越えたデジタルなサービスについては、国ごとにVATが違ったり、ジオブロッキング(ある国では使えるサービスがある国では使えないという問題)があり、まだ深化の余地があると考えられていた。これが背景にあり、DSMが進められている。DSMは、「アク セスの向上」「最良なビジネス環境の創出」「成長と雇用の促進」の 3 つの戦略の下に、16 の施策が連なっている。2018年末のジオブロッキングの禁止をはじめ、オンライン・コンテンツ・サービスの越境ポータビリティー(携帯性)を含む産業データの自由な移動などが既に実現している。

規制のない自由なデジタル貿易で
GAFAの市場開拓を後押ししたい米国

  • グローバル展開できるデジタルプラットフォーマーが最も育っているのが、米国だ。GAFAに代表されるような企業群が、世界中の一般ユーザーに対してサービスを提供している。こうした企業を抱える米国は、できるだけ自国企業が他国で規制に縛られることなく、市場開拓できることを望んでいると考えられる。そのため、データに関する縛りを、なるべく緩く設定する方針だ。
  • 今回の日米デジタル貿易協定では、原則としてデータの国外持ち出しを自由とし、国境を越えたデータの取引に関税をかけないとしている。これは、個人データや産業データに国内保存義務(データローカライゼーション)を課し、政府の判断によっては持ち出しできない中国とは異なるスタンスである。
  • さらに、今回目玉となったのは、国が企業に対し、アルゴリズムの開示を求めることを原則禁止とすることを世界で初めて明文化したことだ。ソースコードの開示禁止はTPPでも合意されているが、日米デジタル貿易協定では、これに加えてアルゴリズムの開示も原則禁止した。上述のとおり、中国では、企業にとって極めて重要な情報であるソースコードやアルゴリズムが政府の判断で開示させることができ、現地進出企業の不満につながっているが、日米デジタル貿易協定ではこれとは異なる方針を打ち出している。
  • 但し、独禁法に抵触する恐れがある場合は例外として認める。企業の競争力を弱めずに、データ寡占に政府が一定の介入をできる余地を残す考えだ。

WTOでのルール統一は困難を伴う

  • 現在、WTOでもECを巡る国際的な統一ルールの検討が進められている。日本は日米デジタル貿易協定をひな型としてWTOでの統一ルールに反映させたいと考えており、早ければ2020年6月のWTO閣僚会議での妥結がゴールとなる。
  • 一方で、これまで見てきたように、米中欧という、データ覇権を巡る主要プレーヤーは相互に競争する関係で、データ取り扱い方針は異なる。さらに、インドなどの新興国の中にも、自国のデジタル産業を育成したい考えを持つ国はいるだろう。したがって、WTOの場で、どこまでの内容を統一ルールとして合意できるかは未知数だ。
  • WTOでのルール化ができない場合、または内容が一定レベルの具体性を持つに至らない場合、データ貿易は、結局はFTAなどの地域貿易協定+相互主義に基づく運用に戻ることになる。
  • そうなれば、データ貿易を巡るルールは世界でバラバラになり、各国で独禁法/競走法を使って相手国企業に制裁を課したり、安全保障上の理由などを根拠に相手国企業の活動を制限するといった応酬が続く危険性がある。つまり、デジタル貿易における保護主義が進展しうる危険性があるのだ。そうすれば、企業の活動が非効率化するだけでなく、最終的には消費者が不利益を被ることになる。

積み残っている独禁法や
消費者保護の線引き議論

  • 難しいのは、個人情報保護法・GDPRや独禁法という、相手国企業への制裁手段が、本質的に消費者保護の意味もしっかりと持っていることだ。つまり、こうした規制は単に相手国のデジタルプラットフォーマーを阻むためのきれいごと・隠れ蓑というわけではなく、実際に、デジタルプラットフォーマーが優越的地位を乱用し消費者に不利益を与えないように律する、消費者保護の意味合いを持っているということだ。中国はともかく、米国や欧州、日本では、他国に負けないよう自国産業を育成しつつも、どのように自国消費者を保護していくかの線引きに悩んでいる。米国ではグーグルを分社化すべきという意見まで出始めているくらいだ。
  • 日米デジタル貿易協定を打ち出しデジタル貿易自由化の「最右翼」ともいえる立ち位置にいる日米も、単に自由化を進めればいいというわけではなく、デジタルプラットフォーマーをどこまで規制し、消費者を保護していくかという本質的な議論はまだ積み残している。日米デジタル貿易協定はデジタル貿易自由化の前進に向けた成果の一つになりうるが、こうした積み残しの解消に向けてまだ議論を重ねていく必要がある。

<関連記事>
日米貿易協定、自動車関税撤廃が焦点に、試されるルールベース

世界が変わるデジタル課税

通商の最近記事

  1. 世界が変わるデジタル課税

  2. 日本から韓国へのビール輸出が20年4か月ぶりにゼロを記録するも、影響は限定的

  3. 日米デジタル貿易協定、世界で先進的なアルゴリズム開示禁止-WTOなどの参考に

  4. 日米貿易協定、自動車関税撤廃が焦点に、試されるルールベース

  5. 日米貿易協定、24日から審議入り

コメント

  • コメント (0)

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

PAGE TOP