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日米貿易協定、自動車関税撤廃が焦点に、試されるルールベース

概要

  • 11月17日付の朝日新聞では、日米貿易協定で自動車関税撤廃が実現しなかった場合の、日本から米国へ支払う関税の削減額を試算・公表した。すると、政府が試算した2128億円の削減額は、自動車関税の撤廃なしでは約260億円へ激減することがわかった。
  • 政府は、そもそも自動車関税撤廃以前に、「通商拡大法232条」に基づく米国からの追加関税を回避することを優先している。
  • 米国との「第2ラウンド」では、232条に基づく追加関税だけでなく、自動車関税撤廃を実現できるかが問われているが、後者については危ぶむ観測が出始めている。

解説

関税削減額260億円の衝撃

  • 11月17日付の朝日新聞では、日米貿易協定で自動車関税撤廃が実現しなかった場合に、日本が米国へ支払う関税の削減額の試算結果を発表した。すると、政府が試算・公表していた2128億円の削減額は、自動車関税の撤廃なしでは約260億円へ激減することがわかった。
  • 政府試算によれば、米国側から受け取る農産物などの関税は、今後1030億円減少する。
  • 自動車関税の撤廃がなければ、単純計算で差し引き770億円、日本側が譲歩する形になる。

自動車関税撤廃と
追加関税回避という2つの論点

  • 11月15日、衆院外務委員会は、日米貿易協定の承認案を自民、公明などの賛成多数で可決した。与野党は11月19日の衆院本会議での採決に合意しており、11月20日には参院で審議入りする見通しだ。 日米両政府が協定の発効を目指す2020年1月1日に向け、 政府は12月9日までの今国会中に承認を得ようとしている。
  • 1か月前の記事でも書いたとおり、日米貿易協定の第2ラウンドでは、日本は手元のカードが乏しい中で、自動車関税撤廃と、232条に基づく追加関税の回避を交渉していくことになっている。
  • 野党は、自動車関税撤廃を第1ラウンドで明確に盛り込めなかったことを追求してきており、第2ラウンドでも、引き続きこれが争点になる。
  • 一方で政府は、232条に基づく追加関税を課さないことをトランプ大統領に口頭確認したことを強調している。政府としては、これを防げれば、それだけでも成果だということだ。

歴史上続けられてきた
対米自動車輸出への配慮

  • 歴史的な視点から見れば、日本の対米自動車輸出を抑制する動きは新しいことではない。1970年代に石油危機が起こると、米国で燃費の良い小型車に対する需要が増大した。その需要に、燃費性能に優れる、日本車が合致し、トヨタやホンダなどの自動車メーカーが米国市場で躍進した。
  • 日本の躍進は止まらず、やがて1980年に日本の自動車生産台数が米国を抜き世界一位になった。すると、米国からの要望に応じ、翌1981年から、日本政府と自動車業界は、米国に対する自動車輸出台数を制限する「自主規制」を導入することになった。
  • 「自主規制」という回りくどい方法を取ったのは、輸入国(この場合米国)が特定の商品に対して障壁を設ける措置に対してGATTが厳しい制約を設けていたためだ。自主規制はGATTによる明確な禁止規定がなかったため、代用された。
  • これを契機にトヨタなどの自動車産業は北米に生産拠点を移転した。1982年にはホンダがオハイオ州で「アコード」の現地生産を始め、1984年にはトヨタ自動車とGMがカリフォルニア州で合弁工場NUUMI(ヌーミー)を設立した。北米で販売する自動車が輸出から現地生産に切り替わることで、批判をかわす狙いがあった。
  • 1995年には世界の通商ルールもGATTからWTOへ移行した。WTOでは、輸出自主規制はセーフガード協定において明確に禁じられたため、輸出自主規制自体は主要な論点ではなくなった。
  • その後米国から要望されたのは、米国産車両の輸入や部品の調達だった。1993年のクリントン大統領と宮沢首相の会談から始まった議論は、1995年の橋本龍太郎通産大臣とカンター代表の閣僚協議により、ようやく決着した。
  • 日本政府は自動車業界の数値目標には関与せず、その代わり米国側は日本の主要自動車メーカーの自主的な計画を評価するという形になった。そして、日本の自動車メーカー各社は、米国で生産する車両を日本へ輸入したり、米国産部品を購入する計画を発表した。
  • このように、自動車を巡る貿易摩擦は、1970年代以降、米国と長きにわたって交渉されてきたテーマである。

「ルールベース」という理想と、
国際政治の現実

  • 外務省や経産省がよく使う言葉として、「ルールベース」というものがある。誤解を恐れず単純化して言えば、「国家間で一度決めたルールは、みんなで守っていこうよ」という、日本人からすると一見当たり前の考え方である。
  • ところが、現実の世界はこれがなかなか守られないわけで、だからこそルールベースということを、日本は声高に叫んでいる。国際的なルール=国際法は、国家によるルールの逸脱が積み重なることで、ルール自体が変わるというダイナミズムを持っており、ルールが守られないことは珍しいことではない。
  • 今回の文脈で言うルールベースとは、WTOを中心とする国家間条約のはずだった。しかし、多国間の合意形成の難しさからWTOのルール作りの機能は形骸化し、主戦場はFTAやTPPなどに移行した。更に、WTOは紛争処理機能も機能不全に陥りつつある。米国が中国との紛争で敗訴したことをきっかけに、WTO紛争処理制度の上級委員会への専門家の選出を止めていることがその顕著な例だ。

WTO違反の可能性をはらむ
日米貿易協定

  • 日米貿易協定は、WTO違反の可能性をはらむ内容になっている。
  • WTOは、最恵国待遇の原則に基づき、特定の国に優遇関税を適用することを禁じている。
  • TPPや日米貿易協定はその例外として認められうるが、そのためには、「実質的にすべての貿易」について関税を撤廃する必要があり、その目安は「関税撤廃率9割以上」とされる。
  • しかし、米国は今回、明確な期限を明示しておらず、先送りした自動車・自動車部品を含めてようやく 「関税撤廃率9割以上」を達成する。そのため、WTO違反となる可能性を指摘されているのだ。
  • 但し、これはルールベースの世界の話である。日本の最大の同盟国で、安全保障の一部を担っていて、世界一の経済大国で、巨大な国内市場という取引材料を持っている米国が、日本に色々な圧力をかけてくるという国際政治の現実。こうした現実の前に、ルールベースが歪むのは、致し方ないことなのかもしれない。
  • 日本の対米輸出の3割以上は、自動車産業が占めている。WTO体制下では、一度下げた関税を再び引き上げることは難しいため、米国として譲りたくないのは理解できる。まして、トランプ大統領は来年選挙を控えているからなおさら日本に有利な譲歩はしづらい状況だろう。

日本の生命線は
ルールベース

  • もっとも、こうして日本が米国だけを特別扱いし、ルールベースを大きく曲げてしまうと、日本の戦略であるルールベースが、他国に通用しなくなってくることが危惧される。
  • EU、特にフランスなどの加盟国は、国際ルールに則った秩序とWTOルールに反する米国との取引には一切反対すると表明している。TPP加盟国の中には、今回の日米貿易協定は、言葉が違うだけで実質的に日米FTAだと思い不満に感じている国もあるだろう。
  • そうした国に対して、日本が国家間の合意やWTOルールを守る国だということを示していかなければ日本の信頼や求心力が低下し、今後の国家間通商交渉で、交渉力が低下する可能性がある。
  • そういう意味で、日米貿易協定は、理想と現実の間の最適解を探していく、難しい作業だと考えられる。

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