概要
- 2009年に始まった太陽光発電の余剰電力買取制度が始まって10年が経過しようとしており、「卒FIT」と言われる人々が数多く生まれる。
- そんな人々に対し、電力業界だけでなく、他産業もサービスを提供し始めようとしている。
解説
RPSから始まった
日本の再エネ導入政策
- RPS(Renewables PortfolioStandard)とは、電気事業者に、新エネルギー等から発電される電気を一定量以上利用することを義務付ける制度のことだ。新エネルギー利用の拡大を目的として2003年から始まった。
- 電力会社は、
1. 自ら新エネルギー等により発電する
2. 他の発電事業者が新エネルギー等で発電した「新エネルギー等電気」を購入する
3. 新エネルギー等電気相当量を購入する
のいずれかの方法で義務を履行しなければいけなくなった。
再エネ導入が
限定的となったRPS
- 電力会社に一定割合の電気利用を義務付けるRPSは、再エネ導入の数値目標を設定・管理しやすく、着実に導入を進められるというメリットがあった。
- 一方で、電力会社の負担を前提とするため、高い数値目標は設定しづらく、導入が限定的になるというデメリットがあった。2003年に施行されたRPS法では、電力各社の買い取り義務量は電力販売量のわずか1.35%(10年度目標)に抑えられた。割高な再エネを義務量以上に使うインセンティブは電力会社に働かないため、この義務量が事実上、再エネ導入の上限になった。
- 電力業界の利益は1兆円。そのうち、再エネ導入に割けるのはせいぜい1千億円と言われる。この原資のみに頼って再エネを普及させること自体に制約があった。
- また、電力会社からすれば、コスト効率が悪い先進技術を導入するインセンティブも働かない。
- RPSはこうした制約をもっており、再エネ導入は大きく進まなかった。
日本がRPSでゆっくり再エネを導入する中、
ドイツはFITで再エネ市場を育てた
- 一方その頃、ドイツはFIT(Feed-inTariff)を導入した。FITとは、電力会社(系統運用者)に対して、電力の固定価格での買い取りを義務付けする制度だ。
- ドイツは2000年に再生可能エネルギー法によってFITを法制化し、太陽光発電や風力発電の市場を拡大させた。規模の大きいメガソーラーも支援対象とし、太陽電池の価格は劇的に低下した。
- その結果、それまで太陽電池で先行していたシャープが、生産ベースで世界トップの座をドイツのQセルズに奪われた。国内市場で再エネ産業を育てることができなかった日本は、その後、中国勢や米国勢の台頭の前に後退した。(但し、現在の太陽光発電の累積導入量では、巻き返している)
2009年に余剰電力買取制度
2012年にFITを導入した
- このような状況下で、日本も2009年になって余剰電力買取制度を導入した。この制度は、国が定めた固定価格で太陽光発電の余剰電気を買い取ることを電力会社に10年間義務付けるものだった。
- そして、2012年には買取対象を太陽光以外の再生可能エネルギー全般に拡大し、さらに十分な売電収入確保のため全量買取制を導入した日本版のFITに統合した。
- その結果、RPSは2017年から5年間で段階的に廃止されることが決まった。
- それまで電力会社に頼っていた負担は、電気料金に含まれる「再エネ賦課金」という形で国民が負担することとなった。
2019年から
「卒FIT」が始まる
- 2009年11月に始まった太陽光発電の余剰電力買取制度は、1キロワット時当たり48円という固定価格での買取期間が10年間と設定されていた。
- 2019年11月に制度開始から10年を迎え、「卒FIT」が生まれ始める。2019年は約50万件、さらに2023年までには約165万件の「卒FIT」が発生すると見込まれている。
卒FITで売電価格が大きく下がるが
当面は売電が中心
- 「卒FIT」を喜べないのが、再エネで発電を行っている人々だ。2009年に1キロワット時当たり48円だった買取価格は段階的に下がり、今年は24円にまで低下した。それが「卒FIT」を迎えると、単純な売電では10円前後にまで下落する。
- 余剰電力は、売電するか、自家消費するかの選択肢があるが、後者は環境が整っていない人が多い。例えば、日中に太陽光で発電した電力を夜間も使いたければ、それを貯めるための蓄電池が必要だが、購入するには平均100万円~200万円の費用がかかる。それ以外の用途としてEVも考えられるが、まだ普及途上で保有者は少なく、高額で簡単に購入できないことは蓄電池と同じだ。
- したがって、当面は売電する人が多いと考えられている。
他産業からの参入が相次ぐ
- こうした悩める「卒FIT」を迎える人々に対し、様々な業界が買取オプションを提示している。「卒FIT」市場には、既存の電力会社だけでなく、住宅メーカーや、蓄電池メーカーも参入している。
- 例えば、積水ハウスは自社物件の顧客を対象に1キロワット時当たり11円で電力を買い取る方針だ。積水ハウスは事業活動で使う電力を全て再生エネで賄うことを目指す「RE100」に加盟しており、買い取った卒FIT電力を自社で使う方針だ。
- 蓄電池メーカーのパナソニックは、自社の蓄電池などを新設した家庭から、最大16円で買い取る方針だ。
- いずれも、既存の電力会社が提示する単純な売電の価格より好条件だ。
仮想発電所(VPP)も競争に
- こうした個別の企業の取り組みの先にあるのが、仮想発電所(VPP)だ。これは、地域内の発電・蓄電需要をあたかも1つの発電所のようにまとめてIoTやクラウドを活用し、集中コントロールする仕組みのことだ。
- テスラは、「卒FIT」向けに同社の蓄電池「パワーウォール」を販売する。しかし単に個々の顧客と取引するだけではなく、その先にはVPPを構築することを見据えている。同社は既にオーストラリアで1000台以上の「パワーウォール」を導入しており、太陽光発電との連携制御の大規模実証実験を行っている。2019年末~2022年の間の3年間で、さらに約4万戸まで住戸を増やして更に実験を続ける計画だ。
- IBMとリミックス・ポイントも、地域内での電力のVPPを構築し、「アグリゲーションコーディネーター」になる構想を持っている。

- 時間軸は少し先になるが、このように、発電機器からデータを収集し、最適化・配分し、機器を制御するというビジネスが今後発展すると考えられている。
再エネを活用した民間ビジネスが
再エネの普及を促進する
- このように、再エネを、住宅や蓄電池、VPPなどと組み合わせて民間企業が色々なビジネスモデルを提供することで、「卒FIT」後も、売電価格の下落が和らぎ、再エネを導入しやすくなる。それによって、再エネ市場が盛り上がり、普及が進むことが期待されている。
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