概要
- 旺盛な航空需要を受け、ICAOでは国際航空を規制することを決めた。2021年からは排出権取引制度であるCORSIAの運用が始まる。
- 環境規制の後押しを受け、電動航空機の開発が進められている。
解説
増加が予想される
航空機によるCO2排出
- 2019年6月のパリ航空ショーでは、ボーイングが今後20年間の商用機の需要予測を発表。2019年から2038年までで、GDPは年率2.7%成長する一方、RPK(有償旅客キロ)は同4.6%、商用サービスは同4.2%、RTK(貨物重量キロ)は同4.2%の成長率を遂げるとした。航空機の需要は、世界経済成長率を上回るペースで伸びていくという予測だ。

- 航空機を使った人流・物流の活発化は経済成長につながる一方で、CO2排出量の増加が懸念される。国連のIPCCは、航空のCO2排出量が2050年には現在の2~5倍に達すると予測している。

- 現在、全世界で排出される温室効果ガスの2%を航空分野が占めており、CO2排出削減が課題となっている。
京都議定書でICAOに委ねられた
国際航空のCO2削減
- ここで、航空分野のCO2排出を規制する枠組みについて、一度振り返りたい。
- 京都議定書において、航空分野のCO2削減については、以下のように定められた。
まず、国内航空のCO2は各国の排出量に計上され、各国の責任において削減を追求すること。
そして、 国際航空のCO2は、国別割当が困難であるため、ICAOを通じて削減を追求すること。 - なぜ国別の割当てが困難かと言えば、国際航空機が国境を越えてCO2を排出したり、あるいは誰のものでもない公海上でCO2を排出する行為をどのように計測し、処理するかという問題や、コードシェア便をどちらの国のものとしてカウントするかと言った問題があったためである。
- こうした問題から、京都議定書発効の時点では、国際航空に関するCO2排出抑制の制度はまだ正確に描けていなかったのだ。
ICAOで数値目標と
その実現方法が定められた
- その後、ICAOでは議論が重ねられ、2010年の総会で
①国際航空にて2050年まで年平均2%の燃費効率を改善
②2020年以降、温室効果ガスの排出を増加させない
という目標が定められた。 - そして、その目標達成手段として
①新技術の導入(新型機材等)
②運航方式の改善
③代替燃料の活用
④市場メカニズムの活用(排出権取引)
の4つが定められた。 - ①-③は既存の航空機メーカーやエンジンメーカー、エアラインといった民間企業の努力で達成されるものだ。しかし、それだけでは数値目標を達成できないため、④の排出権取引制度も必要だと考えられた。
GMBM(排出権取引制度)の
実行スキームCORSIAが2021年開始
- 2016年の総会では、市場メカニズムを活用した世界的な排出削減制度(Global Market-BasedMeasure、GMBM)について議論され、その内容が全会一致で採択された。これによって、GMBMの実行スキームであるCORSIAが実現することになった。
- CORSIAでは、2021年から国際航空のCO2排出に対して排出量のキャップが定められ、キャップとの差に応じて、排出権取引がなされることとなった。
- 2021年からは自主的な参加国のみで運用されるが、世界の輸送の大半がこの制度に加入する。そして、2027年からは全ての国が対象となる。
- 排出権取引の意義は、各企業が、割り振られた排出削減量を達成できない場合、クレジットを購入しなければいけなくなることで、削減に真剣に取り組むことだ。
- 国土交通省の試算によれば、日本の航空会社の負担額は、制度開始時に年間十数億円程度かかると見込まれ、2035年にはこれが年間数百億円程度まで増加する見込みだ。エアラインにとっては大きな負担となる。
欧州各国では航空税など、
更なる追い打ちが始まる
- これに追い打ちをかけるように、欧州では新たな税金の導入も進む。オランダは、2021年1月1日より航空税の導入を決定。欧州域内・域外に関わらず、旅客航行の場合乗客一人当たり7ユーロを課す。フランスは、フランス発の航空便に課税する「環境貢献税」を2020年に導入することを決定。乗客一人当たり1.5ユーロ~18ユーロを課す。
- こうした措置が、エアラインに更なる追い打ちをかける。
環境保護の名目で
電動化が進み始める
- そんな中、航空業界は電動化への道を模索し始めている。
- 少し前まで、航空業界における電動化は、遠い将来の出来事だと考えられてきた。バッテリーの重量が航続距離にもたらす悪影響が大きく、「電費」も既存のエンジンにはかなわないと考えられてきた。さらに、航空機内に大量のバッテリーを積むことには安全性の観点から懸念もある。
- それにもかかわらず、電動化が進むのは、ICAOの数値目標とCORSIAのセットが、企業収益を圧迫してくるからだ。
- 自動車で電動化が進んだのと同じ構図で、航空機でも規制主導の電動化が進もうとしている。
ハイブリッドを中心に
実機の開発が進んでいる
- エアバスは、シーメンスやロールス・ロイスと提携し、ハイブリッド電気航空機を2035年までに投入する計画だ。まず既存の小型ジェット旅客機の電動化に着手し、最終的にA321neoなどの中・大型機にも対応を広げる。
- ボーイングは2017年に自社のベンチャー投資部門「ホライゾンX」を通じて電動航空機のスタートアップ「Zunum Aero(ズナム・エアロ)」に出資。ズナム・エアロは2020年代に小型電動機の実用化を狙う。

- 機体メーカーの電動化に応えるべく、エンジンメーカーも開発を進める。ロールス・ロイスは2019年3月に、ガスタービンエンジン「M250」を使ったハイブリッドシステムの地上実証試験に成功。そこでは、「シリーズ・ハイブリッド」「パラレル・ハイブリッド」「ターボエレクトリック」という、3種類の運転モードでテストした。
- プラット&ホイットニーを擁するUTC社は、ハイブリッドシステム用の飛行実証試験機「Project804」を開発している。

- 完全電動化はまだ先の話だが、環境規制の後押しを受け、ハイブリッド航空機の開発が進んでいる。
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