気になる経済ニュースの考察

  1. 産業政策

インド、EVの次は、2023年三輪車、2025年二輪車の電動化推進を検討

概要

  • 2017年、インド政府高官が、2030年にインド国内で販売されるクルマの全てをEV化すると宣言し注目を集めた。
  • その後、実現可能性を考慮し目標は引き下げられたが、今年に入って二輪車と三輪車を電動化する動きが出てきた。
  • 政府系シンクタンクのNITI aayogは、三輪車は2023年、排気量150cc以下の二輪車は2025年までに全て電動化するという驚きの提案を行ったのだった。

解説

引き下げられた
高すぎるEV比率の政府目標

  • 2017年、インド政府の運輸大臣などが「2030年までに内燃機関車を無くし、EVで販売するクルマを100%EVにする」と宣言した。
  • 同じころ注目された英国やフランスでさえ、ガソリン車やディーゼル車の発売を禁止するのは2040年としたのと比べて、10年も早い目標設定だった。
  • しかも、英国やフランスの目標ではハイブリッド車やプラグインハイブリッド車といった、ピュアEVではないクルマの販売を認める一方で、インドはピュアEVのみに限定していた。
  • これは、あまりに意欲的な目標であり、実現可能性は極めて低かった。
  • そのため、現地の自動車メーカーで構成されるインド自動車工業会(SIAM)は2017年12月、新車販売に占めるEV比率の業界目標を2030年に40%にすべきだと政府に提案。
  • 結局、2018年3月、新車販売に占めるEV比率の政府目標は「2030年に30%」に引き下げられた。

深刻な大気汚染
を解決しなければいけない

  • なぜインドはこれほどまでに意欲的なEV化の目標を掲げたのだろうか。
  • 一つには、裾野が広く、GDP成長率や雇用への貢献度が大きい自動車産業を発展させるため、電動化のトレンドを先取りしたいという考えがあるだろう。
  • しかしそれ以上に、インドは差し迫った課題として、「世界最悪レベル」とも言われる大気汚染を喉元に突き付けられている。
  • スイスの民間企業IQAir AirVisualのデータによれば、世界で大気汚染がひどい都市上位15のうち、12の都市がインドにある。
2018年 PM2.5濃度の都市別ランキング /出所:IQAir AirVisual
  • かつて大気汚染がひどい国として同じく引き合いに出されていた中国は、瀋陽など一部に大気汚染がひどい都市がまだ残るものの、首都北京を筆頭に、大気汚染が改善している。
  • 政府が旗振り役となって、汚染物質を排出する工場の閉鎖や移転、石炭利用の削減などを行ってきたためだ。
  • それとは対照的に、インドは進展があるとは言い難い。
  • ニューデリーがあるデリー首都圏は、ひどいスモッグの発生により、2017年11月に公衆衛生上の緊急事態を宣言。しかしそこから抜本的な解決策は実行されていない。
  • この「世界最悪レベル」の大気汚染を改善することが急務となっているのだ。

三輪車と二輪車の
電動化も検討

  • そこで政府は、クルマ以外の三輪車(リキシャ)や二輪車についても、電動化の目標を設定することを検討し始めた。
  • 2019年6月、政府系シンクタンクのNITI aayogは、大気汚染問題への対策の一環として、2023年までに三輪車、25年までに排気量150cc以下の二輪車について、販売するものを全て電動化するという素案を発表した。
  • もし実現すれば、メーカーにとっては、わずか数年で、国内で販売する排気量150cc以下の全てのバイクやスクーターを2025年までに電動化することになり、厳しい負担となる。

ここでも戸惑った産業界

  • クルマで起こった高い目標設定のショックが、今度は三輪と二輪でも起こった。産業界は戸惑った。
  • 以下、とても好評とは言えない産業界の声を、2019/6/30付 日経新聞 朝刊から引用して紹介する。

「非現実的でタイミングも悪い」

(インド自動車工業会(SIAM)のラジャン・ワデラ会長、2019/6/30付日本経済新聞 朝刊)

「バイク業界はインドの国内総生産(GDP)に貢献し、多くの人を雇用している」

著者補足:早急な電動化でメーカーは投資負担を強いられ、既存サプライヤーは取引を失い収益が悪化。雇用悪化につながる、という趣旨と思われる)
(インドのバイク最大手ヒーロー・モトコープのパワン・ムンジャル会長、2019/6/30付日本経済新聞 朝刊)

「25年までの全量電動化は早すぎる」

(ホンダ現地子会社ホンダ・モーターサイクル・アンド・スクーター・インディア加藤稔社長、2019/6/30付日本経済新聞 朝刊)

「非現実的だ」

( TVSモーターやバジャジ・オートなど同業他社 、2019/6/30付日本経済新聞 朝刊)

以前よりEV普及に向け
本腰を入れている

  • 歴史は繰り返す。理想と現実のギャップから、四輪車で起きた揺り戻し・朝令暮改が起こる可能性は否定できない。産業界と調整不足のまま、 NITI aayog が政策を発表したのは明らかだ。
  • しかし、インドは以前よりも本腰を入れているのは確かだ。
  • 需要サイド、供給サイドともに、これまでよりも電動化を進める本気度がうかがえるのだ。

需要サイドでは
購入補助金が積み増された

  • 2019年4月、インド政府は EVの購入助成金を積み増している。今後3年間に1000億ルピー(約1500億円)もの資金を投入する。
  • 2015年、インド政府はEVに対する助成金を創設したが、これまでの助成金の累計金額は約90億ルピーだ。それを一気に10倍以上積み増した計算になる。
  • 四輪車と三輪車は主に公共交通や商用利用の自動車を助成対象とする一方で、二輪車は個人利用のものにも助成金を支給する。
  • 二輪車については既に電動化されたものが販売されており、即効性が期待されている。

供給サイドの補助金も
打ち出されている

  • 供給サイドの補助金も相次ぎ打ち出されている。
  • 例えば、9月16日には、タミル・ナドゥ州が、EV政策「Tamil Nadu Electric Vehicle Policy 」を発表。
  • 2025年末までに投資したEV部品・充電インフラ製造業者やEVバッテリー製造業者に対する資本財への補助金、工場用地取得補助金支給などが定められた。
  • こうした供給サイドへの補助金は、他の州でも既に見られる。
  • 今後各地で更なる投資誘致合戦が繰り広げられるだろう。

充電ステーション
にも助成金を与え増やす

  • さらに、インド政府は充電ステーションの設置にも一定の助成金を出し、新たに2700カ所の充電スタンドの設置を見込んでいる。
  • こうした助成の後押しを受け、インド政府系のバーラト重電機やEnergy Efficiency Services Limited (EESL)は、充電ステーションを早くも建設しようとしている。
  • EESLのmanaging directorであるSaurabh Kumar氏へのインタビューによれば、EESLは今後2年間で1万か所もの充電ステーション建設を目標にしている。
  • 2019年9月2日付のThe Times of Indiaの報道によれば、インド発電公社(NTPC)が、インド国営石油公社(IOC)と共同で、ウッタルプラデシュ州・グレーターノイダにおいて、同社初となるEV充電ステーションを建設した。
  • 電動化目標の置き方は強引だったインドだが、かように電動化を進める政策は、以前よりも本腰を入れられ始めた。

<参考記事>
インドの自動車産業政策

南アでVW、BMW、日産がEV化を政府へ要求

航空機も電動化の流れ

産業政策の最近記事

  1. 米国がパリ協定を離脱、一方でRE100加盟企業は世界最多

  2. 東京モーターショー、OPEN FUTUREをコンセプトに「クルマの展示会」からの脱却を図る…

  3. 航空機も電動化の流れ、進むグリーン・アビエーション

  4. インド、EVの次は、2023年三輪車、2025年二輪車の電動化推進を検討

  5. 韓国からの観光客は実際どれくらい減っているのか

コメント

  • コメント (0)

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

PAGE TOP