概要
- 9月18日、カリフォルニア州のギャビン・ニューソム知事は企業から単発や短期で仕事を請け負う「ギグワーカー」と呼ばれる労働者を「独立請負人」ではなく「従業員」として分類するよう義務付ける新法に署名した。
- 新法は、インターネットを通じて単発業務を受注する、いわゆる「ギグワーカー」の労働条件を変える内容で、「ギグエコノミー」そのものを大きく変える可能性がある。
解説
法改正の概要
- これまでウーバーは、自社のドライバーを「独立事業主」として扱い、「従業員」としては扱ってこなかった。
- しかし新法では、下記3つの全ての条件を満たさなければ、「独立事業主」とは認めることができなくなる。
- 会社の管理・監督下にないこと
- 会社の通常業務の範囲外の仕事をしていること
- 同じ業界で独立した事業を手掛けていること
- ドライバーが「従業員」と認められた場合、雇い主であるウーバーは最低賃金の保証や失業保険の手当などをする義務が発生する。
労働者の分類見直しを
迫られるウーバー
- ウーバーやリフトといったライドシェア企業は、これまでドライバーを「独立事業主」として扱ってきた。
- そして、それによって、「従業員」には払わなくてはならない人件費を払わずに済み、コスト抑制に成功してきた。
- 新法が成立した後も、ウーバーはドライバーを「独立事業主」として扱うことを主張しているが、旗色は悪いと見られている。
直接的な影響は
人件費増加リスク
- 仮にウーバーのドライバーが「従業員」として扱われた場合、ウーバーの人件費負担は増加する。
- 英バークレイズはカリフォルニア州でライドシェアの運転手を従業員として扱った場合、社会保障税などによって、ドライバー1人当たり年間3,625ドルの追加費用がかかると試算した。その内訳は、労災補償が2,040ドル、FICA(厚生年金)が967ドル、残りを医療保険や失業保険が占める。
- ウーバーはカリフォルニア州で約14万人のドライバーを抱えるため、約5億ドルが追加で必要となる計算だ(リフトは8万人のドライバーを抱えるため、約2.9億ドル)。
- ウーバーにとってドライバー向けの人件費とインセンティブが最大の費用と言われており、これが増大することは、同社の赤字が更に増加することを意味する。
- また、今後カリフォルニア州以外にも同様の動きが広まれば、更なるコスト増が起こることになる。
資金調達の難化という
二重苦もありうる
- ウーバーの正式な企業名は「ウーバーテクノロジーズ」である。その名が示す通り、ウーバーは自らをIT企業だと自認してきた。ところが、近年はウーバーをIT企業とするか運送企業とするかで見解が分かれている。
- IT企業か運送企業かの線引きが重要なのは、いずれに該当するかで、株価の基準が大きく異なるためだ。一般に、IT企業は、将来の成長性が大きく評価されるため、PSR(株価売上高倍率)は大きくなる。実際の売上に比べて、株価が高くなるということだ。一方で運送企業は、それよりも成長性が低いと見なされ、PSRが小さくなることが一般的だ。
- ウーバーはIPOを果たしたばかりで、現在のPSRはIT企業と運送企業の間の水準に位置している。しかし、運送企業だという評価が確定すれば、現状から株価がさらに下がる可能性が高い。
- そしてそれは、膨大な赤字を垂れ流す同社の経営を繋ぎとめてきた投資資金が、調達しづらくなることを意味している。
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