1. 企業動向

日産とルノーの間で起きていること

概要

  • 9月9日、日産経営陣は記者会見で西川社長の辞任を発表した。
  • その場で、ゴーン氏の一連の騒動によって、日産側が350億円の損失を被ったという調査結果も公表し、改めて旧経営陣との決別も表明した。
  • かつてアライアンスの成功例としてもてはやされた日産とルノーに何が起こっているのか。両社の関係を歴史と共に振り返る。

解説

1990年代の経営危機から
ルノーとの関係が始まった

  • 日産とルノーとの関係の始まりは、1990年代まで遡る。
  • 当時の日産は、生産、販売の両面において課題を抱えており、経営危機に陥っていた。1992年から1998年までの7年間で、最終利益がかろうじて黒字だったのは1996年のみ。有利子負債が2兆円に達し、他社から資本を注入することで延命せざるを得ない状況だった。
  • この時手を差し伸べたのがルノーだったのだが、それを語る前に、まずは日産が苦境に陥った理由から振り返りたい。

生産、販売、商品企画で
競争力を落としていた日産

  • まず生産においては、強力な労組の存在が生産性の向上を妨げていたと言われる。当時の日産には、労組出身でありながら「塩路天皇」と呼ばれ絶大な権力を持っていた日産自動車労働組合役員の塩路一郎氏の下、強力な労組が大きな権限を持っていた。労組の権限が強かったことで、様々な場面で、生産性向上が妨げられる要因となったと考えられている。例えば、生産現場の人事を決めるためには労組との事前協議が必要で、承認を得られなければ、人事を決定することができなかった。ライバルのトヨタがトヨタ生産方式で生産性を向上させていたのと対照的に、会社が現場に介入できない日産は、伸び悩んでいた。
  • 一方で販売も振るわなかった。日本の自動車販売店は、戦時中に一度「日本自動車配給会社」に集約され、終戦とともに解散したが、そのタイミングで販売店を囲い込んだのがトヨタだった。日産はライバルのトヨタと比べ、大きな販売店網を築くことができず、この差が埋められないまま販売力においても後塵を拝した。
  • さらに、商品企画の不発も販売不振につながった。1980年代、日産はバブル期のニーズを捉えた「シーマ」や「スカイライン」と言った高級セダンを次々ヒットさせ好調だった。しかし、バブル崩壊とともにそうしたクルマは売れなくなり、それらに対する依存度が大きかった日産は販売が大きく落ち込んでしまった。
  • こうして、各方面で課題が顕在化した日産は、恒常的な赤字に陥っていった。
初代シーマ/出所: 「日産・セドリック/グロリア/シーマ (1987年~) バブル時代の名車たち13話」GAZOO 2013年4月9日記事

ルノーが日産の株式を保有し
アライアンスが始まった

  • 経営危機に陥った日産は、当初独ダイムラーと資本提携を模索した。ところが、ダイムラーは 1998年に米クライスラーと合併してしまい、資本提携は立ち消えとなった。
  • そこへ新たに手を差し伸べたのがルノーだった。ルノーは1999年に日産の株式の36.8%に相当する6,430億円を投資し、それにより日産とアライアンスを締結した。その後徐々にルノーは保有株式を増加させ、2019年9月現在43.4%の株式を保有している。一方の日産も、議決権は行使できないという制限はありながらも、ルノーの15%の株式を保有しており、お互いの資本関係は深まった。
ルノーと日産のアライアンス/出所:日産自動車

初めから仏政府の意向が
ちらつく投資だった

  • なお、ルノーは1996年に民営化されるまで、仏の公団(国営企業のようなもの)であり、民営化された後も仏政府がルノーの株式を保有している。つまり、ルノーは歴史的にも、現在においても、国策企業としての一面を持っている。1999年にルノーが投資を行った際に、仏政府が債務保証を付けていることからも、そうした性格がうかがえよう。
  • 現在仏政府の動向が大胆になっているため話題になっているが、ルノーによる日産への投資は、初期から仏の国家プロジェクトとしての性質を有していたのだ。

相互補完関係を築き
アライアンスは成功

  • それはともかくとして、ルノーが注入した6000億円以上の資金と人材によって、日産の業績はみるみる回復していった。1999年に日産のCEOに就任したカルロス・ゴーン氏は、同年10月には「日産リバイバルプラン」を発表。村山工場や日産車体京都工場を閉鎖するなど、痛みを伴うリストラを進めていき、ゴーン氏着任の翌年である2000年には当期利益が黒字化し、日産はV字回復を果たした。
90年代に赤字体質だった日産は2000年に黒字化に転じた/出所:日産自動車
  • その後も経営は順調に伸び2000年には1999年に約6兆円だった売上は、20年後の2018年には約12兆円に倍増した。
  • ルノーも、連結子会社となった日産の配当によって、財務状況がみるみる改善していった。ルノーも財務状況が振るわない中で、日産からの配当は貴重な収益源となった。
  • ダイムラーとクライスラーがわずか9年でアライアンスを解消し、VWとスズキの提携も物別れに終わったことに鑑みれば、両社はwin-winを築くことに成功した、稀有な例だった。
  • 日産の立て直しに成功したゴーン氏は、2005年にはルノーのCEOにも就任し、ルノー、日産双方のトップを務めることになった。
2007年東京モーターショーでGT-Rを披露したゴーン氏/出所:Nissan CEO Carlos Ghosn unveiled the Nissan GT-R at the Tokyo Motor Show in October 2007., Nissan Motor Co. Ltd , CC BY-SA 3.0, Wikimedia Commons)

この5年間で徐々に
仏政府の態度が変化

  • そんな両社に隙間風が吹き始めたのは2014年だった。仏政府は、2年以上保有する株式は議決権を2倍に増やすフロランジュ法を制定した。ちなみに、この時の仏経済産業デジタル大臣は現マクロン大統領だった。
  • ルノーの株式を2年以上保有していた仏政府は、フロランジュ法によって議決権を倍増させ、それによって日産買収に臨もうとし、日産や、ゴーン氏の反対によって、これを諦めたと言われている。
  • 仏政府は、ドイツや日本、米国、中国が待つ「1000万台クラブ」を欲しがっていたと思われるが、その望みは叶わなかった。逆にこの時は、話し合いの末、日産がルノー・仏政府との間で経営の自主性を維持する合意を取り付けることに成功している。
経済産業デジタル大臣 時代のマクロン氏(2014年のLe Webに登壇)/出所:LEWEB 2014 – CONFERENCE – LEWEB TRENDS – IN CONVERSATION WITH EMMANUEL MACRON (FRENCH MINISTER FOR ECONOMY INDUSTRY AND DIGITAL AFFAIRS) – PULLMAN STAGE,OFFICIAL LEWEB PHOTOS, CC BY 2.0, Wikimedia Commons

ゴーン氏もルノーCEO再任から
経営統合の可能性を否定しなくなった

  • 一度は落ち着いたはずの経営統合の話が再燃したのは、2018年だった。
  • ゴーン氏は今期いっぱいでルノーを辞め、日産・三菱連合のCEOに専念すると目されていたが、それとは逆に、2022年までルノーのCEOを続投することが発表された。
  • すると、それまで経営統合に否定的だったゴーン氏は、打って変わって、「ルノーと日産の資本構成の変化を容認」すると言い始めた。ゴーン氏は、日産との経営統合を推進することを条件に、株主である仏政府からルノー再任を認められた可能性があるとの報道がなされた。
  • 仏政府が再び攻勢を強めてきた背景には、2017年にマクロン大統領が誕生した影響が見え隠れする。何せ「フロランジュ法」を制定した時の仏経済産業デジタル大臣がマクロン大統領だったのだ。マクロン大統領は、フロランジュ法制定で達成できなかった日産との経営統合に再挑戦しようとしている可能性がある。
  • 2019年に河野外相と岩屋防衛相がマクロン大統領を表敬訪問した際、大統領自ら、ゴーン氏逮捕に対する非難を述べており、仏にとってルノーが国家プロジェクトであることを再認識させられた。

そして、ゴーン氏は逮捕された

  • それからほどない2018年の11月 、ゴーン氏は金融商品取引法違反の疑いで、東京地検特捜部に逮捕された。
  • ゴーン氏の逮捕を巡る報道は、純粋に金銭をめぐる不正行為が原因だという見解と、日産社員によるクーデターが原因だという見解とがあった。これまでの経緯を踏まえれば、後者が全くなかったとは考えにくい。仏政府が株主であるルノーのCEOをゴーンが続投すること、そしてゴーンがその後に資本構成変更に言及したことは、日産がルノーの完全子会社になることを予想させるものだった。日産社内では、このままでは完全子会社にされてしまうという危機感が生まれていたのではないだろうか。

ところが
西川社長も辞任した

  • 2019年9月、今度はゴーン氏告発の立役者であり、CEOを引きついだ西川社長が退任に追い込まれた。西川社長は、ストック・アプリエーション・ライト(SAR)という制度を悪用した疑いがもたれている。SARは、株価が事前に決めた水準を超えると、保有株式数と差額に応じてお金を受け取ることができる仕組みだ。西川社長は2013年5月頃、日産社員がSARの権利行使日を変えたことで、数千万円の利益を得た疑いを持たれた。
  • 9月9日、日産は記者会見で西川社長の辞任を伝えた。そして、ゴーン氏の一連の騒動によって、日産側が350億円の損失を被ったという調査結果を公表した。ゴーンチルドレンでもあった西川社長が辞任すると同時に、ゴーンやその側近たちも断罪するかのような対応は、旧体制との決別を伝えるような印象を与えるものだった。

当面は膠着状態が続くと思われる

  • 今後、日産とルノーの関係をめぐっては、いくつかのシナリオがある。
  • 1つは、ルノーによるTOBだ。一連の混乱に加え、それ以前からあった不正検査問題、北米市場での販売不調などが相まって、日産の株価は低迷している。現在の株価は約660円で、1年前から40%近く値下がりしている。株価がこれ以上下がれば、ルノーにとってもTOBで日産株を買い集めやすい状況になってくる。
  • 2つ目は、ルノーが株を売却し減らすケースだ。仏の法律では、40%以上の出資を受ける子会社は、親会社の株式を保有していても議決権を持つことができない。日産が15%のルノー株式を保有しながら、議決権を持たないのはこのためだ。現在43.1%のルノーの持ち分比率を40%以下まで減らすことができれば、日産に議決権が生まれ、対等な関係に近づくことができる。
  • 3つ目は、日産がルノー株を25%まで買い増すプランだ。日本の会社法では、日産の出資比率が25%になるまでルノー株を買い増せば、ルノーの日産に対する議決権は消滅する。
  • こうしたいくつかのシナリオが考えられるが、近くいずれかの選択肢が取られる可能性は低い。日本政府はあくまで民間の問題との建前だが、ルノー・日産の経営統合問題は、実質的に日仏両政府を巻きんだ政治マターになっている。現時点で日産とルノーだけでなく、日本政府と仏政府の主張も折り合わない以上、当面は膠着状態が続くものと思われる。

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