概要
- 2019年8月、エアバスは、中部国際空港(セントレア)にて航空会社や報道関係者らに「A220-300」を披露し、デモフライトも実施した。
- エアバスは、同機を日本市場で売り込む狙いがあると見られる。
解説
「A220」とは、かつての
ボンバルディア「Cシリーズ」
- 「A220」とは、カナダの航空機企業ボンバルディアがかつて生産していた小型機「Cシリーズ」のことだ。
- 「Cシリーズ」は100-150席の小型機で、エアバスに買収されるまでは、ブラジルの国策航空機会社エンブラエルの「Eジェット」とシェアを二分していた。
- しかし、2000年代以降、開発遅延と販売不調により業績が悪化。
- すると、2018年にエアバスが「Cシリーズ」事業を実施しているボンバルディアとカナダ・ケベック州との合弁「CSALP」の株式の50.1%を取得し、経営権を握った。
- こうして「Cシリーズ」は、「A220」と名前を変えて、エアバスの手によって販売され始めた。

ボンバルディアが
「Cシリーズ」を売却した理由
- ボンバルディアが「Cシリーズ」を売却した理由は、「博打」としての航空機事業のビジネスモデルから、経営に行き詰まったためだ。
- 航空機産業は、莫大な開発費がかかるため、一度開発で失敗すれば命取りになりうる「博打」のようなビジネスモデルだ。
- 実際、これまで数多くの航空機メーカーが開発につまずき、市場から姿を消してきた。
- 古い例では、1984年にロッキードが旅客機部門から撤退し、1997年にマクドネル・ダグラスもボーイングに吸収された。
- いずれも一時は一世を風靡した、名門企業だった。
- 今回「Cシリーズ」が買収されたのも、開発でつまずいたことが最大の要因だ。
- 技術開発の遅れにより、開発費は当初計画の34億ドルから60億ドルへと倍増した。
- さらに、その影響で販売開始が遅れ、ボーイングとエアバスからの妨害にも遭ったことで、売上も不調だった。
- 「Cシリーズ」と、当時ボーイングやエアバスが販売していた小型機は、そもそもセグメントが異なり、直接の競合ではなかった。
- しかし、「Cシリーズ」の燃費の良さを脅威に感じたボーイング、エアバスは、自社の機体に燃費の良い新型エンジンを搭載させ、それを「Cシリーズ」以上の大幅な値引きで販売した。
- これによって、「Cシリーズ」に興味を示していたエアラインも、ボーイングやエアバスの機体購入に流れてしまった。
エアバスが
「Cシリーズ」を買収した理由
- 航空機業界は、1980年代から本格化した淘汰の時代を経て、今はボーイングとエアバスの2強体制になっている。
- エアバスもボーイングも、商機を逃さないよう、製品のポートフォリオを大型機から小型機へ広げ、フルラインナップ化に舵を切っている。
- 「Cシリーズ」がいる100-150席のセグメントは、中小都市同士を結ぶ路線などで今後増加が見込まれ、有望性が高い。
- しかし、「Cシリーズ」の買収を検討していた当時のエアバスの現行機で最小だったのは座席数120-150席の「A319neo」で、ややサイズが大きかった。
- 元々エアバスは「A318」という、より小さな機体を生産していたが、それをやめてしまった。
- その穴を埋めるために、Cシリーズが必要となり、買収に至った。
- なお、エアバスが「Cシリーズ」を買収した2018年、ボーイングも小型の「Eジェット」を持つブラジルのエンブラエル社と、合弁会社を設立した。
- 合弁に、自社が80%を出資することで、事実上エンブラエルを買収した。
- ボーイングも以前100-150席セグメントで「737-500」という機体を生産していたが、それを辞めてしまっため、「Eジェット」が必要だった。
- エアバスと似たような状況下で、エンブラエルを買収した。
- ボーイングとエアバスは、互いに小型機メーカーを買収することで、フルラインナップ化を進めている。
「A220」は誰が買うのか
- ボンバルディア「Cシリーズ」の売れ行きはよくなかったが、「A220」は2019年6月末時点で、21社から551生の受注を獲得している。
- 世界のエアラインには、かつてボーイングやエアバスから購入した「737-500」や「A318」といった、100-150席の古い機体を今でも運行している航空会社が一定数存在する。
- こうした企業の買い替え需要があるため、「A220」は一定数売れていくと見込まれている。
- エールフランス-KLMグループでは、「A318」や「A319」の後継機として、オプションを含めれば120機もの「A220-300」を発注している。
- 日本では、主にローカル線を担うANA傘下のANAウイングスが同じサイズの「737-500」を保有しており、今後買い替えのために発注する可能性がある。
- 買い替え需要ではない新規需要の顧客として、LCCが挙げられる。
- 近年LCCが大手エアラインの間隙を縫うように、中小都市を結ぶ路線に注力し始めており、そこに「A220」を投入する可能性がある。
「スペースジェット」
は「自分との闘い」
- 今回の「A220」の披露は、三菱航空機のお膝もとであるセントレアで行われた。
- 「日の丸航空機」への影響が気になるところだが、影響はあまりないと思われる。
- 三菱航空機の「スペースジェット(旧MRJ)」は、「A220」とはそもそもセグメントが異なるためだ。
- 100-150席の「A220」に対し「スペースジェット」は60-90席で、一回り小さい。
- 従って、「スペースジェット」にとって「Cシリーズ」は直接的な競合ではなく、本来影響は大きくない。
- しかも、「A220」は開発から時間が経っており、空力などの性能では「スペースジェット」が優れていると言われる。
- 「スペースジェット」に近いサイズの航空機を展開している「Eジェット」は、より手強いライバルだ。
- しかし現在ボーイング・エンブラエルは「スペースジェット」が闘う90席級セグメントの開発を凍結していると言われる。
- 米国のパイロット組合の労使協定により座席数を制限する「スコープ・クローズ」で、90席級セグメントの需要が見通しにくいためだ。
- 競合が勢いを欠く中、「スペースジェット」の成功は、三菱航空機が、開発を着実に終わらせ、早急に機体を納入できるかにかかっている。
- 「スペースジェット」の納期は、当初2013年と計画されていたが、その後5回に渡って延期され、現在のスケジュールは2020年半ばとなっている。
- 延期が続いたこの7年間は、開発費がかさみ、多くの販売機会を失ったことは言うまでもない。
- 三菱航空機は「スペースジェット」の型式証明取得に向け、現在米国で飛行試験を行っているが、一部では、試験の遅延による6度目の納入延期も囁かれている。
- エンブラエルも身売りをする原因となった開発遅れを最小限で止められるか否かが、「スペースジェット」の命運を分けることになりそうだ。
<参考記事>
この記事へのコメントはありません。