概要
- ネスレは、2019年4月に植物由来の加工食品である人工肉の生産・販売を行うことを表明した。
- ヨーロッパでは既に販売を開始しており、2019年内には米国でも販売を開始する。
解説
なぜ人工肉が増えているのか
- 最近増加している人工肉のトレンドは、健康意識の高まりという消費者意識の変化と将来の食糧難対策という人口動態による変化が組み合わさって生まれたものだ。
- 健康意識についていえば、海外の著名人やセレブたちが「ヴィーガン」と称して肉を食べない食生活を実践し宣伝したことで、一般層にも浸透してきている。
- しかし、ヴィーガンは消費者全体の中ではまだ小さな割合にすぎず、企業が次々にこの領域に参入する理由としては不十分だ。
- 人工肉ブームを動かしているのは、人口増加がもたらす食糧難への対応という、より大きなトレンドだ。
人口増加で将来肉が不足する
- 国連人口統計によれば、現在70億人の世界人口は、2050年には98億人に増加する。
- さらに、アジアやアフリカの国々が徐々に経済発展を遂げ、国民の所得が上昇していく。
- それによって、近い将来、肉の消費量が一気に増え、需給がひっ迫していくと予想されている。
- その場合、肉の価格は高騰し、現在の価格水準では肉を購入できなくなる可能性が高い。
人工肉が食糧難を解決しうる
- バーチャルウォーター、あるいはウォーター・フットプリントという考え方がある。
- 一言で言えば、ある食料を生産する場合に、どの程度の水が必要かを推定したものだ。
- 例えば、トウモロコシを1kgを育てるために1.8キロリットルの水が必要だが、そのトウモロコシを餌として牛肉1kg を生産するには、さらに2万倍もの水が必要だと言われる。
- つまり、水だけに着目しても、肉を生産するためには、野菜より遥かに多くの資源・費用が必要になるということだ。
- 実際には、これに加え土地や飼料も大量に必要で、更に費用がかかる。
- 人工肉が普及し量産されれば、現在の肉を大きく下回るコストで生産ができると言われている。
- そうなった場合、食肉事業者たちは、肉と同等の価値を持つ安い人工肉を生産・販売することで、大きな利益を得ることができる。
- さらに、人工肉の価格優位が確立され普及していけば、市場の大半が人工肉に切り替わっていくシナリオも想定される。
- その時出現する巨大市場で、肉の生産、あるいは販売で、業界のリーダーになることができれば、大きな利益を得ることができる。
- こうした見立ての元、様々な企業が次々に参入している。
ダンキンが人工肉ソーセージ
の取り扱いを開始
- 2019年1月、ドーナツ販売業界のリーダー企業ダンキンドーナツが、その社名からドーナツの文字を消したことで衝撃が走った。
- 何せダンキンドーナツは、世界30カ国に5000店以上を展開する、世界最大のドーナツ販売チェーンだったのだ。
- 社名を変更した理由は、ドーナツだけでなく、他の商品を組み合わせて販売するというダンキンのビジネスモデルを表現するためだった。
- ドーナツ単体での販売は利幅が薄いため、ダンキンは近年コーヒーなどの飲料販売を強化していた。
- 今や同社の米国における売上の60%はコーヒーが占めていることから、確かにダンキンドーナツはドーナツ販売店とは呼べなくなっているのかもしれない。
- そのダンキンが、2019年7月から人工肉でできたソーセージを朝食メニューに取りれると発表し、更に話題を呼んだ。
- 米国ではコレステロールを気にする消費者や、菜食主義者が増えてきており、こうしたニーズに応える狙いがあると見られている。
バーガーキングやケンタッキーも
人工肉でできた商品を販売
- こうしたトレンドに大手ファストフード企業も追随している。
- 2019年4月には、バーガーキングが、米ミズーリ州の59店舗で、植物由来の人工肉を使った「インポッシブル・ワッパー」を販売し始めた。

- 一方ケンタッキーフライドチキンは、2019年8月末から、米アトランタ州の店舗で、植物由来の人工肉を作ったフライドチキンを販売する。
- バーガーキングのハンバーガーもケンタッキーのフライドチキンも、人によっては本物と区別がつかないほど味や食感が似ていると言われる。
インポッシブル・フーズと
ビヨンド・ミートが生産を支える
- こうした人工肉の商品を支えているのが、シリコンバレーの2つのベンチャー企業だ。
- バーガーキングに人工肉を提供しているのがインポッシブル・フーズだ。
- この両社の商品はスーパーでも並んでおり、米国市場で着実に販売を伸ばしている。
- ダンキンとケンタッキーに人工肉を提供しているのがビヨンド・ミートだ。
- 既に米国以外のカナダやイスラエルなどの市場にも人工肉を出荷している。
- 投資家からの期待も高く、2019年5月にはナスダックに上場した。
人工肉の生産に参入する
巨人・ネスレ
- 世界最大の食品企業であるネスレは、現在事業ポートフォリオを大胆に組み直している最中だ。
- その流れの中で、2019年4月にマーク・シュナイダーCEOは人工肉への参入を宣言した。
- そして、自社で開発した植物由来の人工肉「インクレディブル・バーガー」を使ったハンバーガーを、4月からドイツマクドナルドで販売し始めた。
- この人工肉は、大豆のタンパク質、小麦、ビーツの根、人参、パプリカなどから作られており、既に1500店舗以上で販売されている。
- さらにネスレは、2019年中に新商品の「オーサム・バーガー」を引っ下げて、米国に進出する。
- この人工肉はスーパーや大学の食堂、レストランなどで発売される予定だ。
- 人工肉は着実な市場の成長を見せているが、これまでは肝心の生産者がベンチャー企業であった。
- しかし圧倒的な開発力や展開力を持つ世界最大の食品企業・ネスレが参入したことで、人工肉の市場はさらに活況を呈しそうだ。
<参考>
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