概要
- ネスレは、2018年にスターバックスから、商品の販売権を72億ドルで取得した。
- 日本では2019年4月から家庭用コーヒーの販売を始めており、2019年9月からは投入する商品を一層拡充する。
解説
ネスレは世界最大の食品企業
- ネスレは、1886年にスイスで創業した、世界最大の食品メーカーだ。
- 時価総額は、欧州企業の中で最大の3200億ドル。
- グローバルに事業を展開しており、その範囲は世界189か国にも及ぶ。
- 2018年決算によれば、売り上げは約914億スイスフラン(約10兆円)。
- 地域別の売上は、米州(AMS)が43%、アジア・オセアニア(AOA)が30%、欧州・中東・北アフリカ(EMENA)が27%。
- 米州の割合が大きいが、全体的にバランスの取れたポートフォリオになっている。
- 事業別の売上は、粉末/液体飲料が23%、健康食品が17%、乳製品/アイスクリームが15%、ペットケア用品が14%、調理済食品が13%、菓子類が10%、ミネラルウォーターが8%。
- 近年は、健康食品やペットケアと言った新しい事業が成長している。
- ネスレはブランド力も強く、欧州のコンサルティング会社であるブランド・ファイナンスが発表した2019年版「最も価値があり強いスイスブランド」では、ロレックス、オメガ、タグホイヤー、スウォッチなどを抑えて一位と評価されている。
現在のネスレ経営者はヘルスケア業界出身のマーク・シュナイダーCEO
- 現在ネスレの経営者となっているのが、2016年に独ヘルスケア大手フレゼニウスのCEOから抜擢されたマーク・シュナイダーCEOだ。
- ネスレは伝統的に、社内で人材を育て、その中から経営幹部を選ぶという、日本に近い人事制度を取っていた。
- しかし、2016年当時はネスレの成長率が鈍化しており、その危機感から、1922年以来初めて、実に95年ぶりに外部から経営者を抜擢してきた。
- シュナイダーは、ネスレ成長のための変革を行うことを期待されている。
ネスレの経営戦略は、飲料、健康食品、ペットケアへの注力
- シュナイダーの元、ネスレは2017年以降、事業の選択と集中を行ってきた。
- 収益性が低い事業は売却が進んでいる。
- 2018年1月に米国の菓子事業をチョコレート大手の伊フェレロに売却すると発表。
- すると、同年9月には、子会社のガーバー生命保険を、保険大手の米ウエスタン&サウザン・フィナンシャル・グループに売却すると発表した
- さらに、2019年6月には日本でもおなじみの「プロアクティブ」などで知られるスキンケア事業を売却すると発表した。
- 一方で、飲料、栄養食品、ペットケアは強化すべき3本柱と位置付けており、その強化のために、積極的なM&Aや提携を行なっている。
- 2018年には、英国のペット向けECサイトテールズ・ドットコムを買収した。
- そして、飲料ではコーヒー業界との提携や買収が進んでいる。
米国のコーヒー市場で後塵を拝しているネスレ
- 飲料事業で大きな割合を占めるコーヒーは、米国が世界最大の市場だ。
- その米国市場で、ネスレは他社に大きく後れをとっている。
- FOOD navigato.comの調査によれば、2017年時点の北米のコーヒーの小売売上高は、「Dunkin」も展開するJM Smuckerが26%で一位、JAB Holding Co/KMG、スターバックス、Private labelの3社が15%で並び、その後はケチャップやチーズでもおなじみのクラフトハインツが14%と続く。一方のネスレは、わずか3%で6位だった。
- そんな中、ネスレは2017年に、米テキサスを拠点にコールドブリュー(低温抽出された)コーヒーを販売するカメレオン・コールドブリューを買収した。
- コールドブリューコーヒーは、一般に苦みがないのが特徴で、若年層に人気だ。
- 冷水でコーヒーを抽出することでカフェインやタンニンの量が減り、苦みや酸味を抑えた、すっきりとした味わいになる。
- 自分たちが手掛けていないコールドブリューコーヒーを手の内化することで、若年層の取り込みを狙う。
- さらに、2018年にはスターバックスから、世界での商品販売権を約72億ドル(約8000億円)で買収した。
スターバックスとの提携で世界市場のシェア増加を狙う
- スターバックスの商品販売権を獲得したことで、ネスレは家庭用コーヒーを世界各国で販売できるようになった。
- ネスレがスターバックスと組む理由は、ブランド向上と、製品ラインナップの拡充による売り上げを増加させるためだ。
- 上述の通り、現在提携によって達成したいのは、コーヒーの最大市場である米国で、のシェア増加だ。
- しかし中長期的には、スタバの販売権獲得は、今後伸びていく「コーヒー新興国」で販売を拡大していくためのものでもある。
- 1日の1人あたりコーヒー消費量は、アメリカ0.93杯に対し、日本は0.25杯、中国に至っては0.003杯だ。
- 日本にもまだ伸び代があり、中国はそれとは比較にならないほどのポテンシャルを持っている。
- 実際、最近の中国のコーヒー市場はすごい勢いで拡大している。
- 英国の「国際コーヒー機関」の統計によれば、年間コーヒー消費量の増加率は世界平均が2%であるのに対し、中国は15%だ。
- 日本や中国で良いブランドを確立しているスターバックスの商品を取り扱うことができれば、今後売上を大きく伸ばす可能性が出てくる。
日本や中国では2019年から家庭用コーヒー販売を本格化
- 日本では、2019年4月に家庭用のカプセル式コーヒーメーカーである「ネスカフェ ドルチェ グスト」向けに、スターバックスのカプセル製品を発売した。
- さらに今年9月からは、ドリップコーヒーなどの家庭用コーヒーの商品を更に増やしていく。
- 中国では、2019年8月からスターバックス製品の販売を開始する。
- 中国国内でEC売上高1位のアリババ「TMALL」、2位の京東商城(ジンドン)「JD.com」を通じて販売する。
- また、北京、上海などの一級都市では、オフィスやホテル向けにも販売する。
- スターバックスとの提携で、低調だったネスレのコーヒー事業の成長が予想される。
日本のコーヒー市場で独自の取り組みを続けるネスレ
- 日本では、ネスレは「アンバサダー」という独自の販売方法でオフィス向けの販売を切り開いてきた実績がある。
- 「アンバサダー」とは、ネスレの「ネスプレッソ」や「ドルチェグスト」といったハードウェアを持っている顧客が、自分の職場にもネスレを広める行為をネスレが支援する仕組みだ。
- ネスレはアンバサダーの職場にはハードウェアを無料で提供し、その代わり、オフィスにいる顧客がコーヒーを飲むたびにハードウェアで使うコーヒーのカプセルの代金を徴収する。
- 日本人の真面目な気質を見抜き、アンバサダーに思い切ってハードウェアのメンテナンスを任せたところ上手くいき、法人需要の開拓につながった。
- さらにネスレは2019年3月から、睡眠カフェというサービスを始めた。
- 就寝前には飲む習慣がないコーヒーを、ノンカフェインにしたうえで来店客に提供し、その後ベッドやリクライニングチェアでの睡眠という体験も提供する。
- 顧客が目覚めると、目覚めのカフェイン入りコーヒーを提供し、顧客は、自分が睡眠していた際の脳波のデータを見ることもできる。
- 就寝前にコーヒーを飲む習慣を広める狙いと、ヘルスケアサービスへの拡大の一挙両得を狙うと見られる独自の取り組みを始めている。
- こうした努力に、さらにスターバックスと商品の販売も加わり、ネスレのコーヒー事業の成長が期待される。
<参考>
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