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  1. 産業政策

トランプ大統領のグリーンランド買収騒動の裏にあるもの

概要

  • 8/20、トランプ大統領は、かねて表明していたグリーンランド買収に対して、デンマーク首相や政府高官から否定的な反応が出たことで、9月に予定していたデンマーク訪問を取りやめると発表した。

解説

フレデリクセン首相の対応に立腹したトランプ大統領がデンマーク訪問を中止

  • 8/16、トランプ大統領のグリーンランド買収意向に対し、デンマークのメテ・フレデリクセン首相はそれを「馬鹿げている」とストレートな物言いで拒否した。
  • すると、8/20にトランプ大統領はこれを「いやな発言」と形容し、立腹していることを表明。
  • 9月に予定していたデンマーク訪問を取りやめると発言した。

トランプ大統領に同様の文句を言われた女性たち

  • 余談だが、トランプ大統領は過去に幾人かの女性を「いやな」女と公言し非難を浴びたことがある。
  • その言葉を贈られた大半が、政敵である米国民主党所属の女性議員だ。
  • 現職下院議長ナンシー・ペロシ、現職上院議員のカーマラ・ハリス、現職上院議員のエリザベス・ウォーレン、そして国務長官を務めたヒラリー・クリントンとそうそうたる顔ぶれだ。
  • それ以外では、トランプ大統領嫌いを公言している英国メーガン妃も同じ言葉を贈られた。
  • トランプ大統領は、自分に対して攻撃的な発言をする女性に対して、「いやな」女性という表現をたびたび使う。
  • 日本で国家元首が女性議員や外国の皇族をそのように呼ぶことは考えられない。
  • こうした発言からも、トランプ大統領の型破りさを感じずにはいられない。
  • しかし、一見荒唐無稽とも見えるグリーンランド買収発言は、ちゃんとした考えに基づいている。

これまでグリーンランドには魅力が少なかった

  • グリーンランド買収の目的を理解するためには、まずグリーンランドの概要を理解する必要がある。
  • グリーンランドは、北極海に浮かぶ世界最大の島で、デンマークの自治領だ。
  • 人口は僅か5万人足らずでその8割以上が先住民族イヌイットのカラーリット族に属する。
  • 島の85%が分厚い氷で覆われており、産業は漁業くらいしかない。
  • これらの条件からわかるように、グリーンランドは貧しい島だ。
  • 財源が足りないため、デンマーク政府から年間33億デンマーク・クローネ(5000億円以上)もの補助金が交付されており、グリーンランドの歳入の半分を賄っている。
  • グリーンランドの失業率は10%と高く、生産労働人口が流出してしまうため高齢化が進んでいる。
  • さらに、世界一高い自殺率、アルコール依存症など、社会問題も多く抱えている。
  • つまり、グリーンランドは、貧しくて閉塞感のある社会だということだ。
  • そのグリーンランドを欲しがる国がなぜ出てきているのか。

北極海の氷解がグリーンランドの価値を高めている

  • グリーンランドをトランプ大統領が欲しがるのは、地球温暖化により、グリーンランドの周りの北極海が「使える」海に替わってきているからだ。
  • 地球温暖化によって、20世紀後半と比べて、北極海の氷は3~4割も減少した。
  • これによって、船が航行できる範囲が格段に広がり、漁業や、エネルギーなどの天然資源採掘が可能になっている。
  • 北極海には、地球全体の推定埋蔵量との比較で、石油は13%、天然ガスは30%もの量が海底に眠っている。
  • さらに、レアアース、金、ダイアモンドも豊富にある。レアアースは、世界の埋蔵量の25%程度が眠っている。
  • こうしたことから、グリーンランドでは、将来石油や鉱物資源の開発事業が活発になるとみられている。
  • グリーンランドは、大きな経済的価値を生む島に変貌しつつあるのだ。

グリーンランドをめぐり争う米中

  • グリーンランドと付き合いが長いのは米国である。
  • グリーンランド北西部カーナークにチューレ空軍基地を持ち、他国の弾道ミサイルを感知するレーダーを配備している。
  • そんな米国に挑戦するかのように、2018年に中国は、「北極政策白書」をまとめ、北極海を「氷上のシルクロード」と名付けた上で、グリーンランドと資源開発の交渉を始めた。
  • 中国はグリーンランドに対して、空港の改良工事や、研究施設や衛星通信施設の建設を提案していた。
  • グリーンランドは、元々デンマークの植民地で、そこから自治を勝ち取った歴史がある。
  • グリーンランド側には、中国からの支援をてこに、デンマークからの補助金を減らし、自立度を高めたいとの思惑がある。
  • そのため、中国の提案を受け入れるインセンティブは働きやすい。
  • 一方、これに反発しているのが米国と、デンマーク政府だ。
  • 2019年5月、ポンペオ米国務長官は、フィンランドで開催された「北極評議会」に出席し、公然と中国を批判した。
  • ポンペオ国務長官は、一帯一路で債務漬けになった国々を引き合いに出しながら、中国による北極海沿岸国への投資は、沿岸国を債務漬けにし、政治的腐敗に陥れる危険性があると非難した。
  • こうした水面下での綱引きもあり、2019年6月には中国は提案を取り下げ、代わってデンマーク政府が空港建設などの投資を負担することになった。

グリーンランドは軍事的にも重要な戦略地

  • 米国は、経済だけでなく、軍事の面でも、中国の進出を脅威だと感じている。
  • チューレ空軍基地には弾道ミサイルを感知するためのレーダーもあり、そこに中国が進出してくるのは米国にとって好ましくない。
  • さらに、中国はグリーンランド周辺の北極海に原子力潜水艦を配備する計画があると言われている。
  • そうすれば、米国に対する安全保障上の脅威となるため、何としても阻止したい考えだ。
  • 米中は北の果てのグリーンランドでも、覇権争いの局地戦を行っている。
  • トランプ大統領が発するグリーンランドを買いたいという発言は、経済的・軍事的な理由に裏打ちされている。


<参考>
米中の人工衛星開発競争について

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