概要
- 財務省と厚生労働省は、来年度の社会保障関連の予算編成で、社会保障費の増加を抑制するために、 介護保険の見直しや、薬の公定価格の引き下げを計画している。
解説
日本の社会保障費は高齢化で毎年5,000億円以上増加している
- 高齢化に伴い、この3年間、日本の社会保障費は毎年5,000億円のペースで増加している。
- さらに、2022年以降は、団塊の世代が後期高齢者になり始めることから、増加のペースが年間8,000億円以上に急増する。
- その結果、2025年には年間の社会保障費が金額ベースでは149兆円、対GDP比では24.4%に達すると言われる。
- 2012年との比較では、金額ベースでは+35%、対GDP比は+1.4%増加する計算だ。
政府は介護保険制度の改正と医薬品の公定価格引き下げで抑制に挑む
- 社会保障費が増加する中、政府は来年度、介護保険と医薬品の公定価格に手を入れ、1,200億円程度を削減しようとしている。
- まず、介護保険は2つの制度改正により700億円程度の削減を計画している。
- 具体的には、高所得の会社員の介護保険料を上げる「総報酬割」の導入と、中小企業の会社員のための協会けんぽに支払う補助金の削減だ。
- 次に、医薬品の公定価格を引き下げることで、500億円程度の削減を計画している。
- 医薬品の公定価格とは、医療機関が国へ請求する医薬品の価格のことだ。
- 公定価格は、流通している実態価格より高いため、社会保障費の増加要因になっている。
- 実態価格は、製薬会社が薬局に対して割引価格で納入するため、平均10%以上低いと言われる。
- 国は 医薬品の公定価格を 実態価格に近付ける形で 引き下げ、社会保障費を削減しようとしている。
高額医薬品の増加が更なる社会保障費の増加要因になりうる
- 追い打ちをかけうるのが、近年増加している高額医薬品だ。
- 5/15には、白血病などの治療薬「キムリア」の保険適用が認められ話題となった。
- その公定価格は3,349万円で、過去最高額を更新した。
- 仮に70歳未満で年収が約370-770万円の患者が「キムリア」を使用した場合、自己負担額はわずか40万円程度で済む。
- つまり、差額の約3,300万円が国の社会保障費に跳ね返ってくることになる。
- 癌など、従来治療が難しかった分野で、こうした高額医薬品増えているのが最近の製薬業界の一つのトレンドとなっている。
- しかし、こうした高額医薬品を単純に高いという理由で公定価格を引き下げるのは合理的ではない。
- 例えば、「キムリア」はたった1回の治療で3,000万円以上かかるが、それによって、長期の通院や複数回の投薬が不要になり、トータルの医療費が安くなることもあり得る。
- あくまで、実態価格や適正価値に基づいて公定価格が引き下げられるべきだというのは、高額でない医薬品と変わらない。
持続可能性を担保するため、保険制度はまだ変わる
- 結局、現役世代からの介護保険料の徴収強化や医薬品の公定価格の引き下げだけでは、社会保障費の膨張を抑制できず、更なる打ち手が必要だ。
- 現役世代も含めた施策としては、風邪などの軽い症状に対する医療保険の負担の引き上げが今後起こり得る。
- また、高齢者に対しては、現在1割負担で済んでいる後期高齢者の医療費負担の引き上げや、介護保険給付の削減などがあり得る。
- シルバー民主主義という言葉があるように、政府は高齢者に厳しい政策を行うことに及び腰だ。
- しかし、生産労働人口が減少し、歳入も減っていく財政状況下では、どこかのタイミングで高齢者の負担増・給付減に踏み込まざるを得ないだろう。
- 「国民皆保険は維持しつつも、保険料は高く、自己負担割合は大きい」徐々にそんな保険制度に変わっていくのではないだろうか。
この記事へのコメントはありません。